野生の試行

 

9:30を目指して、順調に電車を乗り継ぐ。
車中、気休めに告知ツイートを重ねてみる。
今日はけれど、Aさんに観てもらえたら、
それでよいのだ、というキモチでいる。

 

島本町駅、今日は駅前の公園で、
ボソボソ台詞を言ってもだいじょうぶそう。
幼児と歩くお母さんや、犬の散歩する人と距離を取りつつ、
父に捧げるほろ苦いブルースを舌の上で転がす。

 

ローソンで、挨拶文をコピーする。
以前はコピーの仕上がりを細かく修正して、
何百円も投入して紙を無駄にしたが、
もう、そんなしつこさは無くなった。

 

9時半過ぎ、稔さんがやってきて、
店に入る。店長にもご挨拶。児童書売り場の、
稔さんが設置してくれた高性能「箱」に、
驚愕する。ありがたや、ありがたや。

 

習字で看板を作ったり、コンタクトレンズを入れたり、
短冊を書いたりして準備を進める。店のあちらこちらに、
前に書いた短冊が貼られているのを確認する。
過去の甘い記憶が何かと今をしめつける。

 

前に見せてもらっていたポスターに、
彩色がされていた。Oさん、いつもありがとう。
はだしで、どこまで歩いていけるか。
野性を取り戻すことは、できるのか。

 

Aさんからメールがあって、今日は、
来れないことを知る。それでは、魂を、
飛ばすことにする。そういえば、前にも、
ここにいない誰かに向かって演じたことがあった。

 

案外、ここにいない誰かにしか、語りかけてこなかったのか。
そこに、致命的な欠陥があったのかもしれない。
11時を回って、店内に人が増えてきたものの、
ひとり芝居を観に来た感じの人は、いない。

 

しばらく、椅子に座ってぼんやりとしてみた。
欲しい本を選ぶでもない、ふしぎな時間を味わう。
日曜日。本を買いに来た子どもたちの姿に、
今から騒ぎ立てることが罪深く感じる。

 

3年ぶりの「読書の害について」は、
混迷する世界情勢を生きる私たちの生活に虚しく響き、
せめて長谷川書店への愛をと張り上げる声も乾いていた。
箱に逃げ込んだ傷ついた魂に、今年も、
ベルは優しく震えてくれた。安心。

 

そうして、三途の川から親父を呼び寄せて、
しばし、故人を偲ぶ風情で、ひとり芝居をしめくくる。

 

稔さんと、おくむらさんと、カレー。
野生に還ることの希望と困難とを、飲みこんで。

 

3時の回は、予期せぬK氏の登場に動揺しつつ、
44歳無職妻子持ちの厚顔で突き進んだ。
終演後、名残惜しさにダラダラと本棚を眺めていたが、
何かを諦めて、ピンポンズさんの本を買って、
島本町の駅へと向かった。


購入。長谷川書店水無瀬駅前店。
世田谷ピンポンズ『品品喫茶譚』(品品堂)
世田谷ピンポンズ『世の中には、素晴らしい音楽があって、素晴らしい小説があって、素晴らしい漫画があって、素晴らしい映画があって、素晴らしい俳優がいて、素晴らしいお笑い芸人がいて、素晴らしい喫茶店があって、素晴らしい∞∞∞ ∞∞∞ ∞∞∞ ∞∞∞ ∞∞∞があって。この期に及んで自分が何か創ったりする必要など全くないのではないか。そんな思いになっても一晩ぐうすか眠って起きてみると、歌を書いたりしている。』(品品堂)

 


「野生の試行 とり、やっぱりはせしょでひとり芝居」
日時:2022年7月31日(日)11時、15時、
場所:長谷川書店水無瀬駅前店(大阪府三島郡島本町水無瀬1-708-8)
料金:無料

 

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まだうまく言葉になりませんが、退職しました。

いつまでも、言葉にできないのかもしれないけど、

できることなら、当座の説明だとしても、140字くらいで、

文章にできたら楽になるんじゃないかなー、とか思う。

 

 

「無事に生きのびた」と、言えなくもないけど、

逃げのびたという安堵は、もしかすると、まだ、

一度も感じられていないような気もする。OH!

ホラー映画の登場人物のようじゃないですか。

 

 

長谷川さんからは、「野生にかえるんですね」と言ってもらった。

これまでのところ、一番、勇気づけられた言葉である。

野性を取り戻して、また空を飛び回って、

楽しく本屋さんにゆける日は来るか。

 

 

どうか、どうか全国の書店員のみなさん、

(ぼくの大好きな)本屋さんを、すてきなものにしていってください。

遊びに行きます。

(14年ぶり、二度目のお願い*1