どこだ、私の東京

ここが私の東京


ゆうべは飲みすぎたので、体調いまいち。
ゆっくりと移動しながら回復をはかる。


今日のランチ予定が飛んだので、
思いがけない自由時間にまごついているが、
欲張らず、効率的に楽しみたい。落ち着け。


午前10時過ぎでも、まぁまぁ混んでいる東西線
久しぶりの車窓からの眺めを見ることもなく、
TLに目を落とすわたしは、今、どこにいる。


車中のとも。
岡崎武志ここが私の東京』(扶桑社)


開高健、58才で亡くなったのか。
誰かが亡くなったときの年齢を聞くと、自分の年と、
父親の年とを考える。母親の年を思いうかべないのは、
先におやじが逝くと思っているからか。


東西線を九段下で降りて、神保町へ向かう。
地上に出たところで、すごくドキドキしてくる。
いったい何十年ぶりの神保町でありましょうか。
九段郵便局だ!とはしゃいでツイートしたりするが、
べつに思い出があるわけでもない。やかましい。


今日はいくつか本屋さんを回ろうと思っているが、
関西でも買える本を山ほど背負って新幹線に乗るのだけは、
避けたいと思う。もちろん、こっちで買う「おみやげ」的な、
ほどよい感傷がまぶされていれば数冊はいいかもしれない。


見覚えのない成城石井の登場にびっくりしながら、
思いがけず神保町を訪問するならこないだのエルマガムック*1
買っても良かったかな、とチラリ。いやいや、結局は、
足早に通り過ぎるだけだから欲求不満のもとになる。


神田古書センター5階みわ書房に、久しぶりに足を踏み入れる。
久しぶりというか、まだ2回めか、3回めくらい。前に、
何を買ったとかいう記憶もない。ウルフ探偵の本はなかったが、
今江祥智のハードカバーを2冊も買ってしまう。


購入。みわ書房。
今江祥智夢みる理由―今江祥智児童文学エッセイ集』(晶文社
今江祥智今江祥智の本〈第22巻〉児童文学の時間です (1981年)』(理論社


古本なら、確かに見つけたその場で買わないと、
後で買える保証はないのだけれど、ここは東京。
文庫・新書を中心に軽量購書の原則を胸に刻むべきなのに。


古いエレベーターを降りて、再び神保町の路上へ吐き出される。
続いては、すずらん通りへと足を向けて、東京堂書店へ。
なんとなくリニューアルしたらしき情報も手にしたが、
今や関西在住の身、東京の本屋事情なんて関係ないね、
とばかりどこかの積読本に挟みこんでしまっていた。


喫茶コーナーの併設、店内エスカレーターもなく*2
レイアウトもぜんぜん違っているのだけれど、
そういえば全く感傷的な気持ちにならなかった。
1階をぐるりと回って、上に行くか少し迷いながら、
結局、階段をのぼって3階へ足を踏み入れる。


なんというか、このずらりと並んだ、
「売れなそうな本たち」の存在感に、
ひれ伏したくなってくる。この店なら、
売れていくのかもしれないけれど、でも、
そんなに簡単に売れていくとは思えないような、
海外文学の本、専門書、そういった手強い本たちが、
きちんとした待遇を受けてびっしりと本棚に差されてある。


この空間の成り立ちに、鳥肌が立つような、
奇跡に立ち会ってしまったような気分で、
ゆっくりと棚の間を歩きまわる。
『図書館100連発』*3を見つけて、
しばらくは抱えて店内を見て回っていたのだが、
2階に降りて、平野さんの「稀少本」を発見したので、
棚に戻しに再び3階へのぼったり。


購入。東京堂書店
平野義昌『本屋の眼』(みずのわ出版
波 2017年 06 月号 [雑誌]』(新潮社)


冊子もいくつかいただいてきた。
『港の人の本 2017年4月』(港の人)
『港のひと no.10 2017.4』(港の人)
『図書 私の三冊』(岩波書店


再びすずらん通りへ出る。三省堂書店神保町本店に向かう。
入ってすぐの、ショップインショップっぽいところは、
何か、路上がビル内へと侵食してきているような感じ。
「露店」を越えて左側へとからだを転じると、
予想外の開放的な空間がすーっと奥へ続いている。
あ、そうか、こっちもいつだか改装したのだったか。
向かって左側にずらりと並ぶレジ、これはもしや、
池袋ジュンクと同じく、1階集中レジ方式でございますか。


以前はオーソドックスに雑誌什器が並んでいたところが、
見通しがよくなっていて、妙な気分。妙な気分のまま、
エスカレーターを上って2階文庫の迷宮に迷い込む。
河野通和さんの本で知った探書リストから探すも、
見つけきれない。以前一緒に働いたことのある人が、
何やら同僚の人と話している声が聞こえた。あの頃より、
グッと密度の高まっている声質になっているように聞こえた、
それは責任感という仕組だろうか。まさか加齢でもなかろう。


店の外で聞けば、またあの頃のようにも響くだろうか、
などと考えながら、エスカレーターを下り、自分の声は、
あの頃と比べて、多少なりとも責任感をまとっているだろうか、
などとつらつら考えているうちに足は自然と地下鉄の階段を降りていた。
半蔵門線に乗る。永田町。よからぬビニール袋を持った奴がいやしないか、
不安になる。記憶の中では、千代田線経由でシモキタに出るのが自然だったのだけど、
乗換案内に従って渋谷で降りてみた。さすがに人が多い。


なんとなく記憶と違っている景色の中を泳ぎながら、
それでも井の頭線へと続く長いエスカレーターまでたどりつけば、
あとはもう、不安に思うこともない、急行だと一駅で着いてしまう。
取り出した『ここが私の東京』、藤子不二雄Aのとこをちらっと読んですぐしまう。
まんが道』、やっぱし読んでみたいなぁ。


あまり出ない北口に出て、カルディのある通りを歩いていく。
知っているお店、知らないお店がちらりほらり。
おなかも空いてるし、どこかで何か食べたいな、と思いつつ、
ふと気がつくと、方向を見失っている。あれ、この通りじゃない。
少し戻って、もう一度、知っている店を確認。こっちか?
モスバーガーがある、いーはとーぼで食事はできないか、
おお、白樺書院のある通りに出た!今日はここを左に、
クラリスブックス*4を初訪問。左手に飲食店が現れ、
胃袋を刺激されるも、すぐにクラリスブックスの看板を発見。
思っていたより、近い!以前にもここいらをうろついて、
ちょっと探したことがあった気がするのだが、
発見したのは初めてだ。階段を上っていくと、
入り口に入る前に均一コーナーがある。
なんとなく、トンカさんを思い出す。


自分にとっては、あまり見ないようなタイトルが並んでいて、
期待がぐっと高まる。お店に入ると、白っぽい空間。棚の色か、
壁の色か。本も、新しいものが多い感じ。左手の壁に棚がずっと続いていて、
先の方がP型に膨らんでいる。右手には棚が少しあってすぐ帳場、このレイアウトも、
トンカさんを思い出させる。男性客が一人、店主とことばを交わしている。
買い取りの依頼をしているようで、店主も親切にいろいろと説明している。


なんというか、穏やかにことばをやりとりする様は、
同じ空間にいて、気分がよいものですね。


こちらも、お会計のときに、少しだけお話をする。
けっこうゆっくりしてしまった。そろそろビビビに行かないと、
いろいろ間に合わない。


購入。クラリスブックス。
滝田ゆう滝田ゆうの 昭和ながれ唄―カラー版 (旺文社文庫)』(旺文社)
常盤新平アメリカの編集者たち (新潮文庫)』(新潮社)


昼飯は食ってない、たぶんまた菓子パンを食うことになるだろう。
沖縄に行ってまで昼飯が菓子パンだったから、もう菓子パンで空腹をかわすことをおそれない。
白樺書院が開いていたかも未確認でぐんぐんビビビを目指す。
踏切がなくなってる!とツイートしたが、あれだ、
これ、前に来たときにもすでになくなってた。*5


スズナリの公演ポスターなどを横目でちらりと眺め、
そういえば、ビビビさんは昔、ここに店があったんだよなぁ、
とか思ったりしながらきゅーんと曲がった道をゆく。
古書ビビビ、今は、ここにあり。


外の均一、開高健の『夜と陽炎―耳の物語**』を見つける。
こ、これはオカタケ師匠の本で、出てきたばかりのやつではないか!
こんな風に待ちぶせされるから、ほんと、小憎らしいぜ、ビビビ。
近所にあったら、廃人になってしまう。危険古書店、ビビビ。


店に入る。入ってすぐのところに、『月刊ドライブイン』を発見。
そうだ!今日は、こいつを買おうと思っていたのだった。忘れてた。
絵本をざっと流し、文庫をじっくり味わい、片岡義男とかがある一角をぐっとにらむ。
音楽書のところに来て、胸がざわつく。そうだった、徳川さんのツイートで、
ついこないだ紹介されていた本はなんだったっけ。欲しいと思ったあれ、
外には出ていなかった、「店頭へ」という言葉は、店内の棚ということ。
ひと通り目を走らせたが、それっぽいのはない。焦る。落ち着け。
もう一度、少しゆっくり視線を移動させていく。あった。
ビリー・ホリデイ。セーラーペッカにも出てきた、
ビリー・ホリデイ。善行さんとも話題にした、
ビリー・ホリデイ


購入。古書ビビビ
ビリー・ホリデイ油井正一大橋巨泉奇妙な果実―ビリー・ホリデイ自伝 (1971年)』(晶文社
橋本倫史『月刊ドライブイン vol.2』(HB編集部)
開高健夜と陽炎―耳の物語** (新潮文庫)』(新潮社)
彷書月刊 2006年7月号』(彷徨舎)


開場時間が迫っている。何か口に入れておきたい。
B&Bにも行きたい。外に飛び出して、購入した本を、
ウララトートに入れようとして、思い出した。そこにお菓子があったから。


今日、ランチをともにするはずだった友人に渡そうと思ったお土産を話の糸口に、
徳川さんとおしゃべりを楽しもうかともくろんでいたのだった。忘れてた!ちくしょう!
ディスクユニオン前から、くっと引き返してビビビに再び飛び込み、自分でものすごく不審な感じで、
しどろもどろになって言い訳をまくしたてて、無理やりお菓子を押しつけ退散。何やッてんだ、俺は。


南側の路地の方が、多少は土地勘がある。
テキトーに歩いてもたどり着いたB&B
時間がないので、いちおうすべての棚の前を歩くだけ歩いて、
目当ての一冊をレジに差しだす。


購入。本屋B&B
Rethink Books・編『今日の宿題』(NUMABOOKS)


コンビニでサンドイッチを購入、路上で食らう。
駅前劇場に向かう。このわずかな距離にも、
いろいろと新しくお店ができていたりする。
っていうか、2階にガスト入ってるし!


駅前劇場で動物電気*6の「タイム!魔法の言葉」を観た。
2年ぶりの動物電気。相変わらずの楽しさ。
どっかのサイトで見たのだったか、今回は、
コバケンの「100人斬り」があると思っていたのに、
もうお話が締めに入っている、ないのか!と悲しくなってきたところに、
出ました、「面白いことをする」時間!やった!客席にもどんどん出てきて、
大暴れのコバケンさん。メガネ取られなくて良かった。


終演後、そそくさと劇場を後にして、
下北沢駅に吸い込まれる。無意識に小田急線を目指し、
たぶん初めてシモキタ地下ホームの深さに仰天しつつ小走りで各停に乗り込んだが、
井の頭線で渋谷回りのが早かったっぽい、何やッてんだ俺は。


車中のとも。
岡崎武志ここが私の東京』(扶桑社)

「迷路のつきあたり」という地理的描写は、そのまま二十代半ばで、明日をも知れず暮らし始めた男女の心理をも表しているようだ。(p.180)


近鉄奈良駅改札内のベンチにて、富岡多惠子のところ、松任谷由美の前まで読んで、
本を閉じた。まだ、旅に未練があるのか、明日もこいつをともにしよう。

*1:ぼくらの 神田 神保町 御茶ノ水 (えるまがMOOK ミーツ・リージョナル別冊)』(京阪神エルマガジン社

*2:場所が変わっただけでエスカレーター自体はあったみたいだ。

*3:岡本真、ふじたまさえ『図書館100連発』(青弓社

*4:クラリスブックス:http://clarisbooks.com/

*5:ひとり、東京を泳ぐ:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20150614

*6:動物電気http://www.doubutsu-denki.com/