ブックストアの生還

本の雑誌おじさん三人組が行く! (別冊本の雑誌18)


通しリハ、まずまずの出来。楽しくできた。
空腹に気づかないふりして、地下階だけの店にゆく。
コンビニ横のガラス扉は、内側から紙か何かでふさがれている。
あまり見ないようにして、カフェへ降りる階段へと向かう。
いつかの書店員ナイトを思い出す。


カフェの扉を開けると、段ボールかなにかを抱えた中川社長登場。
いつも売り場で見かける。それは、いいことだろ?左手のカフェには、
今夜はあまりお客さんがいない。時間も遅いからだろうか。
もう、ラストオーダーも終わっているのか。入り口すぐ右手が、
仕切り壁を撤去されて、本屋スペースへ入れるようになっている。
足を踏み入れてすぐ、強烈な違和感を感じて、立ち止まってしまう。
えーと、ここはどこの本屋さんだっけ。雑誌の表紙が網膜を通りすぎていく。


ラストオーダーがどうした、というスタッフの声が聞こえた。
一度、店の外に出て、時間を確認した。あれ。まだ時間があるのか。
カウンターで訊ねると、食事もまだだいじょうぶとのこと。
いつものオムライスを注文。最近は順調に、
満タンポイントカードを使えている。


一番奥の席で、オムライスを食べる。
少ないとはいえ、熱心にそれぞれの活動をしているお客さんも、
数組、数人、席を確保していて、ここから見える景色はほとんど前のままで、
ここがスタンダードブックストア@心斎橋なんだということを、
自分に言って聞かせる。だいじょうぶだよ。
知っているお店だよ。


ここは、君の大好きなスタンダードブックストア@心斎橋なんだよ。


もう空腹という言い訳はできない。
満腹という言い訳に持ち替えて、
おそるおそる本棚へ向かう。
ファッション雑誌をかわすと、
雑貨の群れが待ち構えている。
おいおい、本がないじゃないかと毒づく。


現代思想というか、社会評論というか、
ちょっと硬めの本が顔を出した。どうも。
音楽の本、映画の本、アートの本、1階にあったときとは、
ほんの少し、違った表情と声音でこちらに目くばせしてくる。
文芸書も出てきた。詩集が並んでいた。長田弘の本が並んでいた。
ナナロク社の谷川俊太郎の本*1が面陳されていたところで、
うん、だいじょうぶだ、と、安心した。
「安心」ということばが浮かんだ。
本の本、夏葉社の本のコーナー、
こないだスルーした、『おじさん三人組』が目にとまる。
宇田さんがツイッターで、ウララのことが載っていると書いていた。
パラパラと探す。通りすぎていく章立てが、けっこうグッとくる感じ。
あった。閉店間際のウララに急ぐ三人。あと30分しかないじゃないか。遅いよ。
でも、閉店作業を見ることができていて、急に羨ましくなる。いいなー、三人組。


料理本などの前を、気分良く通りすぎる。
ちらりと、茨木のり子の顔が見えた。こんちは。
下りエスカレーターは動いていた。タウンガイドのところに、
女の人がふたり、楽しそうに話をしていた。肩越しに、
『ブックショップ』*2の表紙を確認。まだある。


理工書のコーナーだったか、『いかにして問題をとくか』*3が平積みになっていた。
これって、『アイデア大全』*4で言及されていたやつでなかったか。
その横に積まれていた『実践活用編』*5丸善出版だ。買い切り?
ノンフィクションのエンド台、中公新書の新刊平積み*6
これも気になる。


最近、どこかで紹介されていた『本を読むひと』*7がある。
ひと通り棚を回っただろうか。まだ見ていない棚はないだろうか。あ、ここ見てない。
ぐるぐる回る。さっき買おうと思った本はどれだっけ。方向感覚がわからなくなる。
あっちにレジ、あっちにカフェ。上りエスカレーターの入り口はふさがれている。


いつの間にか、ぼくが最後の客になっていたようだけど、
スタッフさんは特に何も言ってこなかった。いや、閉店を知らせようとしたときに、
ちょうどぼくがレジに向かったのかな。ともかく3冊、5000円近く買い物をした。
他にもまだ、欲しい本があった。雑貨にも胸がときめいた。そういうお店だった。


おかえり、というのは、ちょっと違う気がする。
よろしく、地下階だけのブックストア。


購入。スタンダードブックストア@心斎橋。
本の雑誌おじさん三人組が行く! (別冊本の雑誌18)』(本の雑誌社
前野健太百年後』(スタンド・ブックス)
堀江敏幸バン・マリーへの手紙 (中公文庫)』(中央公論新社