とり、久しぶりに東京の本屋さんにゆく

 

約束することに、

恐怖心すら抱くほどに、

しょぼくれている。

 

結果、約束や、スケジュール検討などは皆無のまま、

起きたときに起きて、不安に促されてから出かける。

そのようにして、母宅を出たのは、ぎりぎり、

午前中と呼べるか、という11時過ぎのことだった。

 

今日の「約束」は、「夜」に人と会う。

午前中に出かければ、その「約束」は守れるだろう。

あまり考えすぎると、フリーズしてしまう。

大枠で、大枠だけで、動いてゆく。

 

東横線に乗りたいなら、日比谷線で中目黒。

東横線のどの駅なのか、とか、そういうのは、

ずっともっと先に考えればいい。日比谷線なら、

茅場町乗換え。茅場町乗換えなら、後ろの方。

 

おおわく、オオワク。

メールをつづるスマホから、フッと目をあげれば、

見知らぬ駅名に、ギョッとする。落ち着け、

これは日比谷線。中目黒は、終点。ならば、

このまま乗っていてよい。駅名を必死に探す。

虎ノ門ヒルズ駅。なんてこった。新駅は、

山手線だけにあらず、か。

 

検索して、目当ての本屋さんが、

学芸大学駅にあることを確認する。

前にも行った。それほど前ではない。

けれども、今日は、もう流浪堂さんには、

行けない。無くなってしまった店には、

行けないのだ。改札を出て、素直に、

南側へと体を向ける。

 

最初のうちは、スマホに頼ることなく、

足を進めた。人がたくさんいる。ここを、

「日常」として暮らす人々。ブックオフが見えた。

そうすると、こっちにも古本屋さんがあったはず、

と、進むと、シャッターの降りた店があった。

古本市、みたいのに出店していて、お休み。

 

こういう時、がっかりする人と、

ホッとする人がいる。あたしは、ホッとした。

古本屋さんに突入するのは、なんというか、

わりと真剣な勝負を闘うことにも似て、

エネルギーを使うのよ。

 

ふむ、なるほど、あたしはどうやら、

そういう勝負に、疲れてしまったのかもしれない。

いや単なる無職者の金欠か、40男の老いの陰りか。

そうして、ブックオフに入っていった。

サッと見る。サッサと見て、出た。

 

気になる本が無くはなかったが、

さっぱりしたものだ。老いのおかげだ。

そしてようやくスマホで地図を見て、

目的の本屋さんへと歩を進めた。

 

SUNNY BOY BOOKS には、先客がいた。

店の外の箱にもひとり、お客さんの姿。

よきかな、よきかな。通りをはさんで、

反対側のひなたに立って、深呼吸。

 

入り口に、人数制限らしき文言の貼り紙。

そう、今はコロナ時代。小さな書店には、

新しきマナー。一度に二人なら、オッケーかしらん。

熱心に棚を眺めるお客さんと距離を取りつつ、

知っている本、知らない本を呼吸してゆく。

 

 

購入。SUNNY BOY BOOKS。

『本と商い ある日』*1

 

 

さて、次はどこへ行こう。

昨日買ったパンが、リュックの中でぺしゃんこだ。

昼飯は、これでいい?時刻はとっくに、

13時を回っている。あちらこちらと、

本屋をめぐる時間がなくなって、

手元の選択肢が減るほどに、

気楽になってゆく。

 

ふむ。吉祥寺あたりで待ち合わせなら、

かの浜田山の名店に寄ってから、行ける。

ならば、井の頭線。一瞬、ここから三軒茶屋

下北沢まで歩いてゆこうか、などと

頭をよぎったが、思いとどまる、

あたしは44才。

 

そうしてホームに滑り込んできた渋谷行きを前に、

一瞬、東横線沿線の本屋さんを攻める可能性が頭に浮かぶ。

えっと、あのお店は、なんてとこ?

東横線、本屋」などと検索して、水曜日は、

お休みだと知る。安堵。

 

悪名高き渋谷駅に着いて、井の頭線

という表示を目指して、ひたすら進む。

途中、もうすぐあの景色に出るな、と思ったら、

ぜんぜん思いがけないところに出てきて、

なるほど、これが令和の渋谷か、と、

けれどそれほど不快でもなく、ただ、

見知った場所に出た喜びを味わう。

 

さて、井の頭線。下北沢と、吉祥寺しか知らない。

ホームにやってきた電車に乗ってみれば、

どうやら、浜田山駅に行くには、

途中で各停に乗り換えるらしい。

ビビビさんのことを思い出していた。

7月に実家の本を売りに行った、古書ビビビ

 

挨拶をしたい、「次に電車でいらしたときに」と、

馬場さんも言ってくれたのではなかったか。

(DMを掘り起こしても該当発言見つからず、記憶違い?)

下北沢駅に着いて、飛び降りた。みんな降りる。大人気。

 

なんか新しい感じ。改札を出て、

足が止まる。ぜんぜん、見当もつかない、

どっちに行けばいいのか。あれは、ピーコック?

えーい!と気合いを入れて歩き出せば、

想像以上の変化と、TSUTAYAの看板。

 

いちおう、足を踏み入れるも、

退職後に生じた「新刊書店恐怖症」の気配を感じ、

早々に踵を返す。そうして見知らぬストリートをゆけば、

あれ、こっちの方にモスバーガーとか、

B&Bがあったんじゃなかったっけ。

分からぬ。スマホを取り出す。

検索。あれ、ぜんぜん違う。

 

これ以上、見知らぬシモキタに生気を吸い取られては、

と、ビビビがある方を目指して、茶沢通りを歩く、

やぁ、あれはタウンホールにディスクユニオン

そうして、ビビビの外本棚。これこれ、この、

ガラスの味わい、お久しぶりです、ビビビさん。

 

なんとなく、7月にお預けした本らしきものが、

いくつか並んでいるのを見て、グッとくる。

店に入る。消毒。あ、馬場さんだ。

女性のスタッフもいる!手厚いシフトか!

店内をじっくりと見てゆく。ところどころに、

懐かしい本(たぶん自分の)を見つけて、胸が熱い。

 

これまで体験したことのなかった感じで、

あっちこっちに「自分の本」を見かけると、

なんとなく、古書ビビビの中に「自分」が含まれている、

そんなような感じさえ湧いてくるのだった。すごい。

 

しかし、どうしたことか、

胸をいくら熱くしても、肝心の、

レジに持っていく本が決められない。ここに来て、

「自宅の本棚あふれダーダー状態」から来るプレッシャーが、

財布のサイドブレーキをありえないほど引き上げていた。

やべぇ、いったん、外の棚で体勢を立て直せ。

安い本ならすぐ買えるか、というのは、

本棚によゆうのある御仁の発想で、

冷や汗かきかきガラス棚を見てたら、

なんということか、馬場さんが店を出ていってしまった。

 

古書ビビビのツイートは、

自分がフォローしているアカウントの中でも、

一、二を争う大好物で、そのくせ、

何年かに一度、お店に来ても、

ビビってまともに挨拶できず、

ようやく今年の7月に、実家から大量の本を持ちこんで、

その時にそれなりに言葉を交わせて小躍りしたものだった、

「あの時はありがとうございました」ということばさえあれば、

馬場さんとの「ごあいさつ」はグッと容易なものになろうに、

愚かにも、買えない本をさまよっていたばかりに、

馬場さんはどこかへいなくなってしまった。

 

購入。古書ビビビ

小説の技巧』(白水社

 

これは、もしかしたら、自分が手放した本かもしれず。

ぜんぜん、違う人の本かもしれない。分からない。

でも、なんか、もう一度手元に置きたいな、って、

思ったので、買った。馬場さんには挨拶できないまま、

けれど、ようやく一冊買えたので、晴れ晴れした気分。

 

さて、思いのほか、時間が経ってしまったが、

せっかくだから、B&Bに行こう。スマホを見ながら、

想像していた位置と、ずいぶん違うな、と思いながら、

向かう。BONUS TRACK その遊歩道的な風景は、

思っていた以上に好もしい。

 

B&B、なんとなく、あべののスタンダードブックストアを思い出す。

明るさだろうか、広さだろうか。初代B&Bはもっと、

暗くて狭かった印象だ。丹念に棚をたどる、ということはせず、

リラックスして、比較的トントンと歩を進める。

 

松下育男の『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』が、

平置きにされていた。これは、ツイッターで知ったあと、

なかなか実物に会えなかったやつだ。パッと開いたところ、

スーッと読んでしまう。「人って思っていたよりもずっと

弱いし脆い。弱いし脆いと気づいたときには手遅れに

なっていたりする」(p.103-104)

 

俺は、手遅れにならなかったのかしらん。

 

もう一冊、Facebook で誰かが紹介していたやつ、

それもようやく実物にお目にかかれた。「はしがき」を読む。

面白そう。いつまでもこの空気を吸っていられそうだなー、

と思いながら、レジに向かう。おぉ、2冊も買うのか。

なんというか、ビビビさんで買うために苦悩したのが、

嘘のようだ。いや、あれがリハビリになってたのか?

 

購入。B&B

松下育男『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』(思潮社

渡辺健一郎『自由が上演される』(講談社

 

日記屋月日にも、足を踏み入れる。

エゴン・シーレという文字に撃ち抜かれる。

なるほど、日記を網羅するって、想像以上に、

破壊力があるのな。「日記」それ自体でなく、

「自分の中に刺さる誰か」の書いた、日記。

 

フヅクエに寄るかどうか、少し迷う。

なんとなく、title さんでレシートをもらってから、

というビジョンが頭に浮かんでいたせいで。*2

 

でも、よく考えたら、今、B&Bでもらったレシートが、

使えるんじゃなかろうか。そう思って、おそるおそる、

扉を開けてみた。男性スタッフに、訊ねてみた。

「席、空いてますか?」

 

席は空いていた。ひとりのお客さんが、

本を読んでいた。初台のお店には一度行ったが、

下北沢のフヅクエは、初めてだった。壁に、

本が面陳してある。階段があったので、

のぼってみた。突然、靴を脱いで、

くつろいでいる男性がいたので、

仰天した。2階、この広さで、

男性とふたり。厳しい。

 

階段を降りて、空いている席に座ろうとする。

阿久津さんのしつらえたルールに背かないよう、

音が出ないようにそーっと椅子を動かして、

腰をかける、と頭に衝撃が走る。照明!!

 

いただいたメニュー表をひとなでして、

自分が「歓迎されない客」ではないことを示すべく、

買ってきたばかりの『詩の教室』を取りいだす。

そして、メニューを熟読。これは、シモキタ用の文章かな。

 

アイスコーヒーをお願いして、それでもなお、

メニューを読み続けている。阿久津さんの、

にこやかなユーモアがふんだんに盛り込まれた、

「本の読める店」のルール、うんうんと頷きながら、ふと、

今日はそんなにゆっくり本を読む時間がないことに気づく。

やばい。完全に間違えた入店になってしまった。

前に初台に行ったときには無かったオプション、

「1時間フヅクエ」、もうオーダーしちゃったけど、

今からでもいいかな、どうかな、ドキドキして、

写真は最小限パシャリ、コーヒーが来た、

「すいません、1時間でいいですか?」

 

だいじょうぶでした。

 

フヅクエのとも。

松下育男『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』(思潮社

 

自分をバカにしないために詩を書くっていう行為はこの世にあるんじゃないかとぼくは思う。繰り返します。詩を書くっていう行為は自分をバカにしないためにあるのではないだろうか。(p.106)

 

お会計の時、照明に頭をぶつけてしまったことを謝罪。

初台のお店に行ったときには買わなかったメニューを、

今日はなぜか求めてしまう。阿久津さんの、

語りかける身の傾け方が好きなんだ。

 

店を出ると、「暗くなったな」と言えるほど、

しっかりと夕方になっていた。なんということだ、

これでは待ち合わせまでに浜田山訪問できないかも。

足早に駅に向かうと、改めて、駅の様子が新しい。

さっき出てきたはずの井の頭線の改札は、どこ?

 

電車に乗っていると、センパイからメールが来た。

仕事が終わったらしい。本来であれば小躍りするべきところ、

まだ浜田山に行けていないので、ハラハラする。

動揺いちじるしいメールを返すと、楽しげな、

ゆったりとした返信が返ってきて、安心。

 

浜田山駅で降りると、思ってた以上に、

ホームに人が溢れていた。だいぶ降りたな。

『あなたたちみんな、サンブックスさんのある町に、

 住んでいるのですね、幸福ですね』と、心の中で寿ぐ。

 

改札を出て、道の端っこに立って、

何人かの人をやり過ごす。ちょっと迷って、

向こうの方に、目当ての本屋さんを見つけた。

店に入ると、なんというか、その、

「普通の町の本屋さん感」に、

ぐたーっと、リラックスした。

本屋さんの匂い。嬉しい。

 

ジャンル表示のところにあるイラストが、

味わい深い。レジのおばちゃんと、

奥にいた男性とのやり取りも、

なんだか温かい感じ。比較的じっくり、

通路を行ったり来たりして、一冊、買う。

 

購入。サンブックス浜田山。

岸波龍『本屋めぐり』

 

吉祥寺に来た。

さっきツイートで知った、

百年で買うと書き下ろしのミニエッセイ付き、

ということで牟田さんの本をとにかく買うべく、

百年を目指す。センパイはまだ、着いていない。

 

改札を出て適当に歩き出してしまったので、

スマホを頼りに軌道修正。ちらっと目に入る古本屋に、

引かれる後ろ髪は先週、短くカットしたんだ、

吉祥寺の思い出などを心のすきまに求めたら、

うっかり、道を間違えて、危ない、危ない。

しっかりスマホを持ち直して、あっちだ、

うっすら覚えのある階段を上って、百年。

 

入ってすぐの大きなテーブル(?)に、

目当ての本を見つけて、一安心。

あとはセンパイが来るまで、

ゆっくり棚を巡回しようか。

展示していた写真家のひとのポストカード、

気になる。欲しい。買おう。と思っていたら、

センパイと再会した興奮で買い忘れてしまった。

 

購入。百年。

牟田都子文にあたる』(亜紀書房

 

店を出る。お久しぶりの挨拶もそこそこに、

この後、どうする、元気でした?古本屋行く?

あんまり買えないんですよ、家が、せまくなって、

でも今日、ちょっと買えました、あーだ、こーだ。

 

なんとなく、気の向くまま、足の向くまま、

もう、早々にどこでも店に飛び込んで、

積る話をしたかったはずなのに、そこは、

センパイも本が好きな御人でありますれば、

店は店でも、古本屋に飛び込むふたり。

 

購入。古書防波堤。

小野博『ライン・オン・ジ・アース』(エディマン)

 

購入。バサラブックス

津島美智子『回想の太宰治 (講談社文芸文庫)』(講談社

 

購入。よみた屋。

矢口高雄『ボクの手塚治虫 (講談社文庫)』(講談社

 

古本のんきが閉まっていたので、ようやく、

「飯にしますか!」という機運が高まる。

前回会ったのはいつ、どこでだったか。

1003で会った*3後に1度、東京で飲んでいるはず。

 

あれこれ思い出話をしている中で、以前に、

サニーデイサービスのライブに上京したとき、

すごく短い時間だけ、お茶したときの話*4になった。

あれは、サニーデイサービスとしての『東京』再演だったのだが、

曽我部恵一の『東京』ライブというのもあって、

そのCDの話にもなった。

 

昨日、実家のCDをブックオフに放流したときに、

間一髪、カウンターですくいあげたCDが、

リュックサックに入っていたのに、センパイに、

手渡すには十分すぎるほどの前ふりだったのに、

酔いのせいか、ピザの美味しさのせいか、

久しぶりに会った興奮に振りまわされていたか、

そのままCDを持ち帰ってしまった痛恨の極み。

 

大学のときの先生に、この場でハガキを書きましょう!

という企画も、酒に流れてしまった。せめて、

実家で発掘されたセンパイの写真を見せられた、

という達成を祝福するとしましょうぞ。

 

なんとなく、渋谷まで井の頭線で行こうか、

と思っていたのだが、センパイからJR改札に送り出され、

「じゃあ!また!」とごあいさつ。センパイは、

井の頭線の方へと去っていった。

 

リュックが重たい。

ちょっと買いすぎたか、と、

背中に冷たい汗を感じる。