歩道橋から劇場へ(Title経由)

新潮 2017年 04月号


もう、完全に朝は明るい。
小走りは白日の下にさらされている。
コートをはおった小男の小走り。
ケータイを家に置いてきた。


今日は、四季報だ。
それ以外は、それほどでもなさそう。
コミックが多いのか。送品表をチェックしてから、
ケータイもないし、魔術師の本に集中する。


車中のとも。
呉明益、天野健太郎歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)』(白水社


「唐さんの仕立屋」から。ひし形3つの後の語り口の変化に、
戸惑う。何度も読み返してみたが、語り手は変わっていないらしい。
ただ、語り口が、モノローグからダイアローグへと変調したみたいな。
魔術師は出てこなかった。いいんだ。別にいいんだ。


「光は流れる水のように」で、突然、読んでいるぼくの姿が、
すごく高いところから鳥瞰的にとらえられたような気になる。
そして「レインツリーの魔術師」。タイトルの感じから、
いい具合に締めてくれると期待していたけれど、
期待以上だった。よかった。


訳者あとがきを残して、鞄に本を入れる。


昼休憩、ケータイもないし、
残っていた訳者あとがきを読んでしまう。
『複眼人』も、天野訳を期待する。


読了。
呉明益、天野健太郎歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)』(白水社


1冊だけ入荷した『新潮』は、
誰も買っていかない。ドキドキしながら様子を見ていたが、
買わせていただくことにする。もう1冊、4月に会う友人が、
何年も前に推薦してくれていた本を買う。


購入。
新潮 2017年 04月号』(新潮社)
藤山直樹落語の国の精神分析』(みすず書房


車中のとも。
新潮 2017年 04月号』(新潮社)


又吉直樹「劇場」を、まずは目に入れておこう。
書き出し、まぶたのところのかたまりを読んで、
いったん置く。いい。目をつぶってみたりする。
次に雑誌の後ろの方の広告をパラパラ眺める。
ポール・オースター『内面からの報告書』、
北村薫愛さずにいられない』など。
『幸せな裏方』は藤井青銅さん。


乗り換えで近鉄線のホームに立つ。
読む文章を決めかねてパラパラとページを繰る。
よし、と決めて、辻山さんの文章を読み始める。
「Title のある町」、少しずつ、口角があがる。
「これは面白そうな場所でやることになったぞ」とか、
井伏鱒二の『荻窪風土記』とか、石井桃子とか。
nakabanさんのことばにも、震える。
最後の文章に満ちている、
辻山さんの静かな自信に、
力をもらった。


電車に乗りこみ、再び又吉さんの「劇場」へ。
肉体と意識の分離歩行の感覚が面白い。

自分の肉体よりも少し後ろを歩いているような感覚で、肉体に対して止まるよう要求することはできなかった。(p.8)


他人に対する疎外感だけでなく、自分の肉体からも疎外されてしまうなんてなぁ。
自己分裂、みたいなのともまたちょっと違いそうですね。でも、分かる気がする。