三鷹でも小走り

レンブラントの帽子


妻子が先に電車を降りてひとり旅の始まり。
ロケット切り離しみたいな気分。


「月に向かいます!」


いいえ、三鷹に向かいます。
数日前、空犬さんのブログ*1で知った、三鷹でのイベント。
金曜、休憩時に三鷹図書館に電話して予約完了。
昨日、改めて空犬さんのブログの三鷹紹介を、
自分のケータイにメール転送しておいた。


荻窪駅を通過するとき、うっすらと痛みを覚える。
Title*2 に寄って寄れないこともない。


いいえ、三鷹に向かいます。
今日は三鷹に集中するのです。


車中のとも。
『文庫X』


昨日はまったく読めなかった文庫Xに帰ってきた。


三鷹に到着。北口に出るのは、初めてか?
なんとなくこっち方面だろうという方に歩いていき、
目についたお店にてランチを取りつつ水中書店*3の開店待ち。
『文庫X』は、苦い展開を迎えて読み進めるのが苦しくなってきた。
もちろん、面白いので止められない。気がつくと12時をとっくに回ってる。
やばいやばいとガラクタケータイで住所を検索、水中書店を探してさまよう。


あった。
通りの向こうに見えた。嬉しさが胸にぱっと咲く。
店頭の均一棚が思いのほか、大きくとられている。
ちらりと見えた店の中も、懐が深く、ゆっくりできそうな雰囲気。
やばい。『文庫X』を読みすぎて、ちょっと時間が押しているのだ。


ともかく、均一を見ていく。
あ、お、と珍しく何冊か買えそうな文庫が次々と目につく。
店内に突撃、左側の児童書・絵本から見ていく。いや、絵本は大きいから、
あんまり見ないようにする。他のお客さんがいないところを飛び飛びに見ていく。
ああ、詩集や俳句・短歌の本がいっぱいあるところがある。文芸書、文芸批評もある。
なんというか棚が見やすい。きっちり整理されている感じがする。古書ビビビを思い出す。
夏葉社の本のコーナーもある。浮足立っている、欲しい本をしっかり選べない。
ふわふわとした気持ちのまま、時間ばかりが過ぎていき、仕方なく、
外の均一から一冊だけ取って、レジへ。


購入。水中書店。
堀江敏幸おぱらばん (新潮文庫)』(新潮社)


13時過ぎ、小走りで駅へ戻り、そのまま南口へ。
こちらは以前、来たことがある。デッキを降りて、
中央通りをどんどん南下していく。途中、
こどもみこしとすれ違う。お祭りなのか。


けっこう遠い、とは記憶していたが、
やはり「まだかな」と思ってしまった古書上々堂*4
前回来たのは、いつだったか。オカタケ師匠の棚で、『桟橋で読書する女』を見たはずだ*5
今回もしあれば買おうと思ったが、なかった。やはりオカタケ師匠の気配を求めて、
庄野潤三の文庫を買う。(←オカタケ棚からではなかった)


購入。古書上々堂
庄野潤三講談社文庫 夕べの雲』(講談社


さてさて、いよいよ時間が厳しくなってきた。
小走りしていると、けっこう暑い。
三鷹市芸術文化センターの通りまで来た。
ここまでは、知っている道だ。


まだなのか、三鷹図書館。三鷹通りをどんどん南へ。
事前に地図を見た感じでは、三鷹市芸術文化センターから、
もう少し南に下ったところ、と思っていたのだが、
そんなには近くなさそうだ。途中、表示を発見。
あと700mほど。それって小走りで何分ですか。


大成高校、コメダ珈琲を過ぎ、いい感じの並木道に入った。
集合住宅も見える。間違いなく来たことのないところだけれど、
なんか懐かしい気持ちになって先を急ぐ。右側からそれらしい気配を察し、
ようやく、「図書館」の文字を見つけて安心する。間に合った。


階段を上る。自習室のような不思議な空間に、人がたくさん。
右手に会議室を見つけて、受付をすます。空いているから、一番前へ。
同じく一番前の列に座っていた男性は、本を読んでいる。
始まるまでの短い時間、『文庫X』という気分ではない。
何かメモを取りたくなるかもしれないと、
ペンとノートなどを取り出す。


少々不機嫌そうな面持ちで、島田さんが登場した。司会者の紹介の途中、
見知った顔を見つけたのか、ときおり笑顔を浮かべて目で挨拶をしたりしている。
こちらにも視線を飛ばしてくださったようにも思えたが、まだ2、3度しかお会いしておらず、
しかも関西で、かつ大勢の人の間に隠れるようにご挨拶するだけなので、確信がない。
表情とも呼べないような筋肉の変化を、目の周りに浮かべるのが精いっぱいだった。


そっけない真顔とキュートな笑顔を行ったり来たりしながらそれでも、
島田ユーモアが徐々に客席の笑い声を誘う。もちろん僕も笑ってしまう。
頭のどこかで『あしたから出版社』*6を読みなおしたいなぁ、
などと考えているうちにあっという間に休憩時間になった。


休憩後、器用に本を立てながら話の間に間に夏葉社の本も紹介された。
『本屋図鑑』、『昔日の客』、『移動図書館』と、
次々とテーブルの上に本が立ち並ぶ。倒れない。


「本屋さんに行くと本が読みたくなる、図書館に行くと本が借りたくなる」
と聞いて、『本が読みたくなる売り場を作らなくちゃなぁ』と思う。
前川恒雄さんが対談の時に、今の図書館に対して「何やっとんの!俺をカウンターに立たせろYO!」
みたいなことをおっしゃっていたそうで、震え上がる。自分が叱られたような気分。


講演後、希望者には三鷹図書館の管理する移動図書館を見せてもらえるとのこと、
気になったが、やはり今日、この場で一冊、購っておきたい。会場の一番後ろ、
出口前のテーブルで本を売る島田さんにご挨拶するころには、希望者たちは、
もうどこかへ向かって移動を開始したようであった。


購入。夏葉社。
バーナード・マラマッド『レンブラントの帽子』(夏葉社)


ちょうど、ツイッターでことばを交わしていたヒノさんも、
島田さんとお話されていて、ご紹介いただく。島田さんたちについていって、
バックヤードの秘密の階段をおりていくことに成功した。あぁ、良かった。
団体貸出用書庫、移動図書館車ひまわり号の見学を終え、
空犬さんや北條さんともご挨拶。そのままコメダ珈琲で、
三鷹市の職員の方も交えて、しばし歓談。楽しかった。


駅までのバスをご一緒した方は水中書店へと向かい、
すっかり日の暮れた三鷹駅から、中央線で東へ。
次の予定は、原宿で結婚を祝う飲み会。
『文庫X』を読み継ぎ、乗換え、
2日連続で原宿駅に降り立つ。


終電を逃さぬよう、あわただしく飲み会を後にして、
山手線、品川から新幹線、アルコールに眠くなった脳で、
『文庫X』を読み終える。いったん眠ってしまった後、
少しだけはっきりした意識は、何か読むものを求めていた。
すぐそばにすき家のメニューは見当たらず、リュックに入っていた、
島田さんにいただいた出版ニュースを読み散らかす。


京都で近鉄線に乗換え。
特急でなく、急行。それなりの乗車時間に、
次の本へと手を伸ばさざるをえない。


車中のとも。
堀江敏幸おぱらばん (新潮文庫)』(新潮社)

前陣速攻型の円いペンホルダー。私たちは中央の台を子どもたちに譲ってもらい、しばらく乱打に興じた。(p.21)


あぁ、堀江節。


豊住書店、ベニヤ書店と通り過ぎながら、
三鷹でお話したみなさんの顔を思い浮かべる。
距離はとても遠いけれど、三鷹とここは地続きだ。
三鷹の図書館からここまで、歩いて戻ってきた感覚。