古本のことは頭になかった

あいうえおみせ (安野光雅の絵本)


今日はいよいよ、善行さんと田中美穂さんの、
ユーモア決戦の金曜日だ。退勤後、速やかに移動し、
出町柳にたどり着いたのは19時20分ほど。
タクシーでガケ書房へと乗りつける。


開場まもなくの店内には、既にたくさん人がいて、
入場料を払って、本日限りの500円割引券などをもらう。
軽く店内を見て回っていると、奥のほうに、
椅子が並んでいる。こちらがトークの会場か。


一番前を陣取りたい気持ちもあったが、けっこう狭く、
また人々はそれほど座席の確保に熱心でないようで、
ここぞという席を狙う浅ましさを発露させるに忍びなく、
また再び、棚回遊へと戻ったりなんだり。


また少し時間がたって、ちらほらと座席に荷物を置く人も現れ、
僕も一番前一番奥の座席に荷物やら上着やらを置いてみた。
本当は、一番前の真ん中あたりが望ましかったが、
通路をふさいでしまう形になるので諦めた。


ガケ書房店主の山下氏がマイクで、始まる前に買い物をすると、
終わった後のサイン会などでスムーズですよ的なアナウンス。
なるほど、と割引券を握り締めて、本を物色しに行く。


購入。ガケ書房
田中美穂浅生ハルミン苔とあるく』(WAVE出版)
安野光雅あいうえおみせ (安野光雅の絵本)』(福音館書店


安野光雅の本は明日遊びに来る予定の女の子に。
あいうえおの順にお店が並んでいるのだが、
「ほ」のところは本屋だった。ナイス。
500円割引してもらいました。


席についてほどなくして、トークスタート。
基本的に善行さんが田中さんに質問していく、
という体で進む。『わたしの小さな古本屋』を手に、
善行さんが田中さんに話しかけていく。


ときおり覗き込むように視線を飛ばす善行さん、
かたや田中さんは「聞いてるの?」と不安になるほど、
目の前のテーブルのちょっと下あたりに視線を置き、
うつむきながらのお返事。一見、ぎこちないふたりだが、
善行さんのユーモラスな話芸が徐々に会場を暖めていく。


「僕には夢がありましてね」と善行さんが、
古本を売ったり買ったりしながら日本縦断したい、と言う。
まだ訪れたことがないという蟲文庫さんを、そのときに訪ねるつもり、
との仰天発言。ちょっと!もっと早く行こうよ、善行さん!


なんでも、そのときに奥様に店番を代わってもらうために、
今から少しずつ、店番をお願いしているそうな。いい奥様だ。
お客さんの中には、奥さんが店番しているのを見て、もう旅立ったかと
カンチガイした人もいたとか。旅立ちは10年後だそうです。
同行して、記録係兼ドライバーを務めさせていただきたい。
ここに善行師匠の日本縦断古本ツアー助手に立候補いたします。


店番のとき、「どっちでもいける」ように怒った顔をしてるとか、
本を引き取りに要ったら全然欲しくない本で、断ったのに、
金だけ取られそうになって走って逃げた話とか、善行トーク
めちゃくちゃ面白かったです。よく走る人だね、しかし。
善行堂のとほほ古書店日記をぜひともちくま文庫書き下ろしで
お願いしたいと思います。


動物が苦手だと告白した善行さん、「かまれそうで」と言って、
カメも怖いとおっしゃる。田中さんも、笑ってる。
落ち着いてトークをされていた田中さんが、ガケ書房の山下さんと、
カメの話で盛り上がっているのをちょっと呆然と見ていた善行さん。


なんというか、好きな女子がちょっとかっこいい男子と
自分の分からない話で盛り上がっているのを見てなんか淋しい、
といった気分なんじゃないかと邪推しました。まぁ、
僕がそういう気持ちになったんですけどね。


質問コーナーでは、お店の蔵書リストを作成しているかどうか、
お尋ねした。「目録は作っていないんです」とのことだったが、
店にどんな本があるかは把握しているという。善行さんも、
「どこにあるかもわかるんですか?それはすごいなぁ」と。


なんでも、売れた本の記録は毎日ノートにつけているそうで、
「あんまり本が多くないってことなんです」と謙遜していたが、
買取した本は全部アタマに入っていて、出て行った分だけ記録、
あとはもう、全て分かってらっしゃる。すごいな、と思った。


会場からの質問で、良かった本3冊を教えてください、
というのがあり、真剣に考え込む田中さん。最初の2冊で、
小山清「落穂拾い」、木山捷平「尋三の春」と出た。
もう一冊がなかなか出てこない。


ここで善行さんが助け舟(?)を出して次の質問に移ったが、
田中さんは「悔しいな」と言いながら、なお、考えているようだった。
少しくらい気まずくなっても、もう一冊を待ってもよかったかな、と思う。
田中さんの、何かに対する生真面目な一面が見えて、興味深かった。


他、田中さんのよく行く書店として、京都の三月書房と、
荻窪ささま書店(店頭均一台)が紹介されたりした。
三月書房、やっぱしすごいんだな。また行かなくちゃ。
この質問は、嬉しかった。ナイスクエスチョン。


トークが終わり、先ほど購入した苔の本にサインをいただく。
サインには亀のイラストも添えてあった。かわいい。
何か気のきいた一言を発したいところであったが、
頭の中は真っ暗でがらんどうであった。残念。


帰りは、出町柳まで、走っていった。途中、
百万遍のかどの本屋さんに立ち寄って、
講談社文芸文庫を探しかけたが、店主から
「何か探してますか?」と話しかけられてしまい、
走って逃げた。善行さんのように走って逃げてみた。


車中のとも。
山本善行『古本のことしか頭になかった』(大散歩通信社)

私もお気に入りの古本をカバンに詰めて、その土地その土地でセドリしながら、日本縦断をしてみたい。そのときは、仙台の火星の庭や倉敷の蟲文庫にも寄りたいと思う。(p.61)


あ、ここでも言っていた。初出は平成十八年五月のエルマガ。
なんということだ。早く行こうよ、火星でも倉敷でも。


読了。
宮崎駿本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)』(岩波書店

僕らの課題は、自分たちのなかに芽ばえる安っぽいニヒリズムの克服です。(p.156)


子どもの本について書かれた文章であると同時に、
東日本大震災を経た日本の「現在」をどう捉えているのか、
宮崎駿の危機感がにじみ出ている本であった。
岩波少年文庫、注目してみようと思った。