ぬけがらケータイの帰還

労働者のための漫画の描き方教室


ドライブ疲れもなんのその、
目覚めて水やり、ペットボトルも捨てた。
06:04にも、ゆっくり間に合った、と、
代替機をいじっていたら、あれ?


発車しない。


しまった。
06:16発の電車の方に乗っていた。
時刻はすでに、06:08だった。


車中のとも。
宇田智子『市場のことば、本の声』(晶文社


今日は珍しく、いくつもいくつも読み進めてしまった。
最近は、一日ひとつかふたつとかだったので、次に読むときも、
「前回読んだのはこのお話」ってすぐに見つけられたのだが、
今回はなんとなく不安になって、別にすぐ見つけられなくてもいいんだけど、
なんとなく、水色のスピンを使ってみることにした。


みなさんは、あの、スピンてやつ、無造作に使えますか?
僕あれ、なんか、買ったときのままをキープしたくなっちゃうんですよ。
で、今回、新しいページにはさみ直すのはいいとして、そのスピンの形、
っていうんですか、折れ方みたいのをキープしようと、慎重な動作になるなど。


退勤後、ソフトバンクショップへ寄って、
修理に出していたガラケーを受け取る。
かすかな予感はあったのだが、
見事にデータ全消去。


ショック、というのも、少し、違う。
二十歳になってしまった、とか、そういうのに似ているのか、
還暦を迎えてしまった!とか、不惑!とか、そういうのに。
いずれ来ると分かっていて、実際にその日を迎えて、
「やっぱし来たか!」みたいな感じだろうか。


今使っている機種と、その前の機種とで、
受信していたメールを持ちこしていて、そこには、
長女が産まれたときにもらったお祝いメールだとか、
関西に逃げだすことを報告した「当時の友達」からの、
がんばれメッセージだとか、その他いろいろ、自分の、
感傷に過ぎないけれど大切に思っている、
ことばの数々が眠っていたのだ。


てっきり、SDカードに保存されているとばかり思っていたのだが、
どうやら、本体に保存されていたらしく、あっさりと、実にあっさりと、
僕のセンチメンタルメモリーは、いずこへともなく去っていった。


沈もうと思えばいくらでも沈めそうなのに、
浮かぼうと思えばたやすく浮かべそうでもある。
どんなメールが失われたのか、あまり考えないでいよう。
近鉄奈良に戻ってきて、夕飯の買い物でもしようかと地上に出たが、
足が向いたのは本屋さんであった。そうか、本屋さんに行って、
元気を回復しようというのか。実に、単純な思考回路だ。


レジ横に、岩波書店のPR誌『図書』が置いてあった。
こないだ探したときは見つからなかった気がしたが、
その後に入ったのかもしれない。目次を見ると、
若林恵の文字がある。そうそう、これだ。


夏葉社の島田社長が、この文章を紹介していて、
読んでみたいと思ったのだった。



無料冊子とはいえ、これだけを持って店を出るのは、
ちょっとためらわれる。せっかくだから、岩波新書とか、
岩波文庫でも買おうかな、と店内をうろつくが、
いまいち、決め手に欠ける。うー、どうしよ、
と思ってビジネス書の方まで迷いこんだら、
思いがけず、TLで気になっていた本が、
ばーんと面陳されていた。


こ、こんなに分厚い本だったのかー!


値段だけ確認して、棚に戻す。
棚に戻したが、気になる。
気になって、もう一度手に取る。


開いてみる。
あー、川崎さんの絵だ。
しかし、これは、うーむ。面白そうだ。
ひとり芝居のことも頭によぎった。そうね。
たとえば、この本をサカナにして、ひとり芝居教室もできるね。


購入。啓林堂書店奈良店。
川崎昌平労働者のための漫画の描き方教室』(春秋社)


島田さんのつぶやきから、思わぬ買い物をしてしまった。
けれども、これは、嬉しい桶屋の儲け話。誰かのつぶやきから、
誰かの購書につながるという、実例を、ねつ造でなく、実践してしまった。


うれしい、うれしい。


嬉しいついでに、ラーメンと餃子を食べて、すっかり機嫌を直す。
帰り道、ぼくだって風を吹かせてみたら、いいじゃないか、と、
ツイートしてみた。ホラでもなんでも、吹いておけ。


とり、ふたたびはせしょでひとり芝居。
この8月の上演を目指す。はっきりとしたことは、まだ、
何も言えなくて、夏。


気になる新刊。
原田宗典やや黄色い熱をおびた旅人』(岩波書店