いろんなみつばちの本当の気持ち

いろんな気持ちが本当の気持ち (ちくま文庫)


保育園送りと洗濯のダブルブッキング。
スケジュール管理の出来ないダメみつばち。
とうとう送りは妻にお願いすることに。あぁ。
それでも、さわやかな秋晴れの日に気を取り直して、
電車に乗りこむ。


車中のとも。
長嶋有いろんな気持ちが本当の気持ち (ちくま文庫)』(ちくま文庫


いつからか読み止まっていた「キャビネットの中」の残りをさらう。
サリンジャー、読みたくなる。


「我々は穂村弘に負けたと感じてもらって、初めて自分の負けも知るのである」(p.112)


今さらながら、長嶋有穂村弘って、似てると思ったり。
でも長嶋有の方が圧倒的に好きなのは、なぜだろう。
そこに、どんな違いがあるからなのだろう。


文の里に降り立つ。
シャッターの閉まったハチの巣わきから置き自転車にまたがって、
居留守文庫へ。岸さんから「みつばち変身グッズ」を受け取り、
再び、ハチの巣をめざす。前回は開店時に岸さんが作業していたから、
今日が初めて、ひとりでの開店作業。ちょっとドキドキしながら、
レジ内を整えたり、掃除をしたり。店頭の看板に本を並べ、
クレヨンでご挨拶文も描く。二度目の店番になって、
告知も激減したが、もろもろの準備も薄くなった。
クレヨンを持ってきていたのは幸いだった。


レジ内で作業しながらふと、カウンター上にどんぐりをみつける。
どなたかが持ってきて飾ってくれたのだろう。帽子や枝もついて、
かなり見ごたえのある立派などんぐりだ。日替わりの店主、
いろいろな工夫が積み重なって、どんどん巣箱が充実してゆく。
岸養蜂師の面目躍如、と言おうか。いや、岸さんの意図を越えて、
いろいろな化学反応も起きているのかもしれない。ゆく末が楽しみだ。


カウンター内にあったスピーカーをお借りして、世田谷ピンポンズを流す。
これもまた、どなたか別のみつばちさんの工夫だったか。ありがたい。
お客さんがいないからと、思わず「鴨川慕情」を口ずさむ。
そうこうしているうちに、ようやくお客さんがご来店。
みつばち古書部をご存知ない方だった。当たり前だけど、
ご近所に住んでいても気づいてない人たちもいるのだ。
このかぐわしい古本の広場が好きな人に、
どうか気づいてもらえますように。


ゆうべiPod に注入しておいた新曲が流れ始める。
翡翠にて」、軽快。水無瀬の夜がよみがえる。
「自転車を漕いだ秋」は、季節ぴったりだし、
ボクだけのための古本屋ライブみたいだ。


ぽつりぽつりと来るお客さん、ときどき言葉を交わし、
人がいない時にはハガキを書いてみたり。


ヒマに耐えて、微笑みをたたえて店に立ち続けることが、
すてきなお客さんとの邂逅へとつながるんだろうな、と、
にわか店番は古本屋さんの心境を想像してみたりするが、
はっきり言って、みつばち店番では「ヒマ」は苦ではなく、
他のひとの箱を眺めたり、道行く人の姿を見たり、
じわじわと魂の回復にいそしむ幸福な時間なのだ。


16時を過ぎて、店じまい。
岸さんと少し話をしてから奈良へ向かえば、
思っていたよりも残り時間が少ない。みつばちから、
父へと変身して、お迎えへと向かう。