思いもよらない会心の旅

ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 (講談社文庫)


ふと窓の外に目をやる。鮮やかな緑が左から右へと流れていく。
お気に入りの石碑はどうやら過ぎてしまったようだ。建物が出て来たら、
間もなく西大寺に着いてしまう。人々がやたらと乗りこんできてしまう。
気が散らないうちに、本の中深く、隠れなければ。


読了。
長田弘アメリカの61の風景』(みすず書房

モハーヴェ砂漠にまっすぐ下ってゆく道を激しい速度で下っていったとき、冬の光りのなかを下っていったのは、わたしというより、わたしのなかの一人の子どもだった。(p.264)


北海道で子どもが保護されたらしい、とスタッフさんたちが話している。
そもそも、その事件のことを知らなかった。子どもの事件については、
どうしたって気になるはずだから、本当に、目にしてなかったのだろう。
チラッと情報ソースの乏しさが頭によぎって消えた。


購入。
又吉直樹夜を乗り越える(小学館よしもと新書)』(小学館
レイチェル・ジョイス、亀井よし子『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 (講談社文庫)』(講談社文庫)


昨日、仕事の合間に探していた又吉さんの新刊、結局見つけられなかったのを、
今朝、開店前に発見した。しばらく気になっていたまま買えずにいた『ハロルド・フライ』も、
少しずつ売れていって最後の1冊になっていたのが今日、補充されて平積みになっていた。
うながされるように、レジに向かう。こういうスムーズな流れは、心地良い。


車中のとも。
レイチェル・ジョイス、亀井よし子『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 (講談社文庫)』(講談社文庫)


又吉さんのと迷ったが、こちらを袋から取り出す。
アメリカの61の風景』の次の本はどっちがふさわしいのか。
昨日、やりとりを交わした酒井さんのオススメの本でもある。
帯や裏表紙の文章を、ネタバレがないかびくつきながら読む。


読みかけの小説を手にして歩き出したときの感覚は面白い。
頭の中か頭の周りか、物語の世界、風景がくるくるまとわりついて、
自分の移動についてくる感じ。ハロルドに手紙が来た。奥さんは、
ちょっとイライラしている。その朝の風景がまんまついてくる。


読みながら、もしかするとこれはイギリスの話なんじゃないかと気づく。
勝手に、長い距離を歩く男の話ならアメリカの話だろうと思っていたのだ。
だからこそ、『アメリカの61の風景』の後に読むのにふさわしいと思ったのだ。
近鉄奈良に着くまでに「モーリーンと電話」までを読み終えた。


はっきり言って、すごくいい。面白い。アメリカの話ではなかったが、
それもまた、予想外のところまで跳躍できた気がして気分がいい。
アメリカもいいが、イギリスもいい。あっちにもこっちにも、
素敵な人生が、素敵な物語が転がっているんじゃないか。
自分の好奇心が手を伸ばせば、そこには必ず、
面白いことが転がっているんだという、確信。
ひょんなことから購入して、しかもすぐに読みだして、
それがこんなにも面白く、また元気づけてくれる本だなんて、
まさに、思いもよらない旅のようで、ちょっと興奮してしまう。


徹夜して読み干してしまおう、などという無茶を許さない厚みも、
いい。明日は休配だから、朝の電車でもしっかり読める。今夜は早く寝よう、
と思いながら家路を急ぐ。すると、郵便受けにやたらといろいろ突っ込まれていた。
定期購読している『MOE』と、Amazonの封筒。チラシ。買ってきた2冊と合わせて、
やたらと新入りくんたちが運び込まれてきた夜になった。


届いた。
MOE (モエ) 2016年 07月号 [雑誌]』(白泉社
原田知世恋愛小説2~若葉のころ(初回限定盤)(DVD付)』(ユニバーサルミュージック


洗い物や洗濯など、夜の家事がひしめいていたが、
妻のリクエストもあったので、届いたCDをパソコンでかけてみる。
原田知世のCDを買ったのは、初めてだ。彼女の歌をきちんと聞くのも、
初めてだ。原田知世の声には違いないのだが、元の歌を歌っている歌手の声も、
思い出される歌い方だ。こう言ってはなんだが、すごく歌のうまい女の子と一緒に、
カラオケに来たような気分でもある。僕はその女の子に見とれてしまっている。


鞄の中から、読み終えたハードカバーを取り出す。
外してあったカバーをかける。再び、ホッパーを絵をまとった本は、
けれどすぐに他の本に挟まれて、その絵を隠してしまった。
またいつか、読みなおすときが来るだろう。さようなら。


ぜんぜん、早く寝られなかった。