とり、ふたたびミシマ社の本屋さんにゆく

みんなの家。建築家一年生の初仕事


仕事を終えて、ミシマ社の本屋さんへと急ぐ。
途中のコンビニで食べ物を入手しようかと思ったが、
あまりにギリギリ過ぎて諦めて小走りでゆく。
入り口で、お借りした傘を返す。受付を済ます。


  寺子屋ミシマ社・編集編
  もし光嶋さんがミシマ社で本を書くとしたら


既に、会場にはヒトがいっぱい。
ほとんどスペースは残されていない。
前回お邪魔した和室の「本屋さん」と
隣室とのあいだの襖仕切りが外されていて、
さらに奥のダイニングスペースの方まで繋がっている。


ホワイトボードの横に三島邦弘さん。
スカイプだろうか、自由が丘オフィスとも繋がっている。
まもなく、三島さんが話し始める。立ったまま、
やや左右にうろうろとカラダを動かしながら、
寺子屋ミシマ社の前口上。


途中で入室してくるヒトもわりといて、
三島さんの視線がぼくらの頭を越えてアチコチ飛ぶので、
なんとなく、ぼくの気持ちも左右にうろうろとしながら、
やがて、光嶋裕介さんが紹介されて登場。


最初の1時間で、三島さんが光嶋さんにいろいろと尋ねるカタチ。
三島さん自身も「初めて聞く話ばかりだった」というエピソードは、
声をあげて笑えるものもあったけれど、それ以上に鼻の穴が広がるような、
オドロキと感心とアコガレなどが脳内心中を駆け巡るものばかり。


光嶋さんに対する予備知識は、内田樹の「凱風館」を設計した人、
ということと、内田センセイが『ぼくの住まい論』*1で紹介した限り。
何枚か写真も載っていたが、笑顔がすばらしい。正直言って、
「どんな話が聞けるのだろう」という期待は、あまりなかった。


それが、どうだろう。外国と日本とで育ったこと、
高校生まで本というものをまともに読んだことがなかった話、
高校の国語の先生に読んでみろと言われた早稲田卒の作家、
MとMとの作品に触れて、片方のMが面白かったので、
かたっぱしから読んでいった話。そもそもの出発点として、
「本を読むこと」にコンプレックスを抱いていた光嶋さんが、
「遅れている」という意識につつかれるようにどんどんと、
本を読みまくってきた様子に、大きくタメイキ。すごい。


お父様に「ブライアン」という「英語ネーム」(?)をもらって、
英語で思考するときは「ブライアン」という人格でいたが、
大学生になって「ブライアン」をホウネン(?)した話、もあった。
ちなみに3兄弟みなさん、「英語ネーム」があり、
お父様自身も持っているそうな。面白いね。


使う言語によって思考方法が変わるというのは聞いたことがあったけれど、
「建築」という現場において、曖昧だったり冗長だったりする日本語思考でなく、
英語によって、シンプルに本質的に思考していくという光嶋さんのことばは、
より具体的な映像が浮かぶようでワクワクした。
(まあ、僕にはそのオプションは使えないんだけどね)


また、自分が関心を持った建築家で、生きているヒトならば、
会って話を聞きたいと思う、という光嶋さんの「熱い好奇心」にも、
エネルギーの渦巻きを感じて、いいなーと思った。『みんなの家』にも載っている、
アポなしで突撃したシザとの遭遇、そして光嶋さん自身で撮影した写真のエピソード、
三島さんの「なかなかできない」という感心っぷりとともに、
強く印象に残っている。


光嶋さん自身その体験は「なにものにも代えがたい」と言っていたが、
きっと求めなければ手に入らないんだろうな。そのあたりが、
なにごとにも淡白になりがちな僕としては、
「鼻の穴を広げている場合ではない!」と、
自分を叱咤激励したくなっちゃうところ。


笑ったり、広げた鼻の穴を元に戻したりしているうちに
あっという間に1時間たった。ふたりの話を踏まえて、
その後、3、4人でグループをつくって、
「光嶋裕介 × 本のタイトル」というお題で、
いくつか案を考えるセッションが休憩含めて10分くらいか。


休憩後、各グループからひとつ(ときにはふたつみっつ)発表、
ホワイトボードに列挙されていき、三島さんと光嶋さんがコメントしてゆく。
これが、非常に面白かった。キャッチーなブライアンにも人気が集まり、
命名者である光嶋さんのお父様本人からブライアン由来の解説も飛び出した。
(お母様やおばあさま(?)、ご家族のかたが何人もいらしていたようだ。)


人それぞれ、光嶋さんの話のどこに関心を持ったのか、
それを「タイトル」として語りなおしたとき、
そしてそれを列挙したとき、自分が聞いた印象の、
何百倍にも面白さが増していることに驚いた。
最後には、みんなで挙手(ひとり2挙手)で票を投じたが、
三島さんが「もう2冊作っちゃいましょう」と言ったほど、
魅力的なラインナップがホワイトボードにひしめいていた。


購入。ミシマ社の本屋さん。
光嶋裕介、内田樹(ゲスト)、井上雄彦(ゲスト)、山岸剛『みんなの家。建築家一年生の初仕事』(アルテスパブリッシング)


サインをいただく。
「Never Enough 」


サイン会のあと、懇親会。
三島さん、数学者の森田真生さんを囲んだ座組みで、
人類と数学との壮大なハナシに圧倒される。
脳がしびれたようになったのは、
アルコールだけのせいではあるまい。


森田真生さんは、ほんとうに魅力的な人だ。
なんというか、人間じゃないんじゃないか、
という疑問すら浮かんだ。腕時計していることすら、
不思議な気持ちになったほどだ。いずれまた、
お目にかかりたい。


その後、しびれた頭でアキコさんにもご挨拶。
カメラマンの吉田亮人さんともお話をする。
終電間近になって、散会。トイレをお借りしていたら、
みんないなくなっていて、焦った。駅までひとり歩く。


久津川駅では、ミシマ社帰りの人のほとんどが京都行きのホームにいて、
こちら側には男性がひとり、ワイワイと騒いでいるだけだった。
ワイワイしていたのが光嶋さんだった。危ないっすよ!
電車来てますよ!


日本の大切な建築家と、大和西大寺までご一緒するという僥倖。
ほんと、ミシマ社での光嶋さんの本、楽しみにしてますよ。


帰宅して、眠っていた妻をたたき起こして、
興奮して今日の報告をしていると、
娘まで起きてしまった。
ごめんな。

*1:内田樹ぼくの住まい論』(新潮社)