背中の痛み、胸の痛み、雨。

新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相 (文春文庫)


飲み会明け、ものすごい雨。
雨の中に傘を差して歩みだすのが、怖い。


なんとなく予感はあったが、
乗るべき電車は行ってしまった。
ずぶ濡れで、特急券を買う。お金が少ない。
迷ったが、パンと飲み物も買って、車内で食べる。


乗換え、いつもの電車ではなかったが、
それなりのタイトな乗換えだったと思いながら、
傘は差さず、わずかな屋根のない道を駆け抜け、
地下鉄への入り口へ差し掛かったところでスリップ。


背中から着地。息が止まる。男性が「大丈夫ですか」
と声を掛けてきた。返事をしようとしたが声が出ない。
漏れる吐息と震える手ぶりで「だいじょうぶ」と表したつもり、
なんとか起き上がり、痛みにはげしく動揺しながら階段を降りる。


「ちくしょう」とかなんとか、言わずにはいられない。
ぶつぶつと何かことばを口からこぼしながら、よろよろと、
改札を抜け、ホームへ、ホームへと。このまま、半身不随になったら、
まぁ骨折ではないだろう、ひびが入ってたりするかしら、週末の、
6歳児と出かけるドライブ旅行は行けるのだろうか、無理か、
いや、このあと、雑誌の束を持てるのか、物が、
持てなくなったら書店員廃業だろうか、
肉体が邪魔なかたまりになっちまう、
死ぬよりも、悪い展開だ。


気になる新刊。
角田光代源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)』(河出書房新社


これはしかし、もし買ったとしても今日は、
持ち帰れない重み。頼もしい厚み。


昼休みに病院。
診察をしてもらい、大事には至っていないと言われ、
一安心。念のため、とMRI設備のある病院を紹介してもらう。
店に戻る道すがら、やはり痛みははげしく、薄れた不安が再び渦巻き始める。


放課後、別の病院へ。人がたくさん、スタッフも、
「患者」も。老人もいるにはいるが、子どもや若い人もいる。
リハビリ施設もあるからか、いわゆる「病院」とは違う雰囲気。
診察待ち、検査待ちの合間に、文庫を開く。


待合室のとも。
岩瀬成子オール・マイ・ラヴィング (小学館文庫)』(小学館文庫)


人を好きになったり、という現象について、真面目に考察できる年齢。
別に何もわかっちゃいないのに、まったく考えなくなってしまった中年。


背中の痛みのせいか、小説がヒリヒリしているせいか、
長く読み続けることが出来ない。少し読んでは、本を閉じる。
そういえば昼飯を食っていない。腹が減っているせいかもしれない。
空腹と、ほん。両立しにくいのに、しばしば隣り合うふたり。


MRIというのを初体験。CTみたいな感じで、知っているかと思ったが、
何の音か不明な騒音に囲まれて、これは知らない、なんだこれ、
クスクス笑っているうちに眠ってしまった。結果は、
だいじない。昼の病院でも言われたが、
「若くてよかった」とのこと。


若いってよ、39歳。
死にたがってる場合じゃねぇな。


背中の痛みと懐の寒さに耐えながら、
ラーメンを食べてから、家路についた。
家族に背中を見てもらったら、「なんもなってないで」
こんなに痛いのに、見た目にはわからないらしい。
なんか、悔しい。ちょっと不安もよみがえる。
『見えないところが破壊されているのかな』


夜ふかしのとも。
小野一光『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相 (文春文庫)』(文藝春秋


怖い。