読みたくなった者は幸いかな
妻が早く起きなければならない、
と言っていたので、こちらも緊張していい感じに起きた。
お茶を温めて飲んだり、ゆうべ鞄に入れた本を、
やっぱりこっちにしようと取り替えたり。
スタンダードブックストアでこれを買うに至った動機のひとつに、
「カンディンスキー」の名前があった。早とちりで装画がそうかと思ったのだが、
装画はカンディンスキーではなかった。扉絵が、カンディンスキーだった。
「カバー画 三岸黄太郎《冬の陽》(一九九八年)」とある。
冬の朝に読む本に合った、嬉しいタイトル。
目次に並ぶことばを順に拾う。いくつかこぼすが、戻ってまた拾う。
読んだことがあるような題もいくつかある。初出一覧があるようだが、
これまでに収録された書名も知りたい。ひとつだけ読んで、ていねいに鞄に戻す。
幼い子どもだったころのことは、何一つ秩序だって覚えていない。或る情景、或る時間の、一瞬のイメージの断片だけが、不思議なあざやかさをたたえて、記憶のなかにのこっている。それらはたがいに結びつくことがないまま、一つ一つがいわば白い雲の列のように、記憶の青空に浮かんでいる。(p.3)
まだ、電車は目的駅に着きそうにない。もう一冊の本を取り出す。
『時の旅人』、『さよなら僕の夏』、『禁じられた約束』を。
「もっと読むなら」というふくらましが、
『さよなら僕の夏』と『禁じられた約束』にはついていた。
ふくらまし、嬉しい。
車中のとも。
田中共子『図書館で出会える100冊 (岩波ジュニア新書)』(岩波書店)
乗り換えたあとにまたいくつか。
ラスカルの本*1、気になる。泣いちゃいそうな感じだ。
店について、まだだれもいない。
明日は休み。なんとなく、この火曜日の朝というのは、
嬉しい時間だなぁ、と思った。この平和な気持ちはしかし、
クリスマス前の慌ただしい空気にあっという間に霧散することになる。
レジ周辺にぎすぎすした雰囲気がたちこめているような気がする。
常に顔面の周りにただよういらだちをていねいに取り除いて、
なんとか、お客さんに探している本を渡せるよう小走る。
車中のとも。
田中共子『図書館で出会える100冊 (岩波ジュニア新書)』(岩波書店)
『トム・ゴードンに恋した少女』から、『ルリユールおじさん』まで。
文庫・単行本など、収録されている版の違いなども説明してくれていて嬉しい。
気になった本。
スティーヴン・キング、池田真紀子『トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫)』(新潮社)
モニカ・ディケンズ、高橋茅香子『なんとかしなくちゃ (文学のおくりもの 24)』(晶文社)
ドロシー・ギルマン、柳沢由実子『一人で生きる勇気 (集英社文庫)』(集英社)
シャスティーン・ユンググレーン、うらたあつこ『遊んで、遊んで、遊びました―リンドグレーンからの贈りもの』(ラトルズ)
ランス・アームストロング、安次嶺佳子『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく (講談社文庫)』(講談社)
ジョン・スタインベック、竹内真『チャーリーとの旅』(ポプラ社)
中川一政『モンマルトルの空の月 (中公文庫)』(中央公論社)
エリザベス・コーディー・キメル、千葉茂樹『エンデュアランス号大漂流』(あすなろ書房)
ヒュー・ロフティング、井伏鱒二『ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫 (021))』(岩波書店)
J・シュピーリ、パウル・ハイ、矢川澄子『ハイジ (福音館古典童話シリーズ)』(福音館書店)
ニェムツォヴァー、栗栖継『おばあさん (岩波文庫 赤 772-1)』(岩波書店)*2
星新一『竹取物語 (角川文庫)』(角川グループパブリッシング)
H.G.ウエルズ、橋本槇矩『タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫)』(岩波書店)
ジャネット・ウィンター、長田弘『バスラの図書館員―イラクで本当にあった話』(晶文社)
フジコ・ヘミング『フジコ・ヘミング 魂のピアニスト (新潮文庫)』(新潮社)
いせひでこ『ルリユールおじさん (講談社の創作絵本)』(講談社)
その本を紹介する文章のたたずまい、あるいはその紹介する文章を読んだときの自分のコンディションによって、読みたい気持ちは明滅する。同じ本を紹介していても、読みたくなる文章とそうでもない文章とがある。同じ紹介文でも、読むタイミングによって左右されるかもしれない。
さて、ある文章を読んで、そこで紹介されていた本を読みたくなったとする。
読みたくなった者は幸いかな。
その人は、その本を手にするために、どこへ行くだろうか。
自分の本棚にあれば最高だ。あるいは新刊書店、古本屋、図書館、ネットで取り寄せることもできるだろう。
その本が、ついに目の前に現れたとき、あぁ!悲しいかな、読みたい気持ちはどこにも見当たらなくなっておりました。
購入。ジェイアール鶴橋駅店。
今江祥智『はじまりはじまり―絵本劇場へどうぞ』(淡交社)
ねじめ正一『ぼくらの言葉塾 (岩波新書)』(岩波書店)
柴田元幸『つまみぐい文学食堂 (角川文庫)』(角川書店(角川グループパブリッシング))