8月が終わっただけのこと

海、悲歌、夏の雫など (現代歌人シリーズ)


妻は早朝、「仕事」をしに出かけた。
明るくなって乳児が騒ぎ始めた。朝だ。
目覚めて乳幼児しかいない朝、というのは初めてか。
幼児のフォローに助けられながらいつもより、
ほんのり早く保育園に放流、ホッとして、
家に帰って出かける準備。


駅に向かいながら、乗換案内をにらむ。
走っても、特急にはギリギリ間に合うかどうか。
諦めて、手土産や飲み物を購入して、準急で大和西大寺へ。
さてここからが問題だ。


510円払って確実に23分間、座って行くか、
510円払わずに30分間もしかしたら立ったまま行くか。
そんなにも座りたいか?2時間、3時間の道程ではない。
それよりか、510円の本が欲しくないか?108円の古本を、
とかなんとか言っている貧乏人をホームに残して、
比較的裕福な方は特急へ乗りこんでいった。


特急のあとにやってきた急行は、やはり混んでいたが、
幸い、空席を見つけて腰を下ろした。靴の間に飲み物を置き、
本を読む。心が騒ぐと、ガラクタケータイでツイートする。
右となりの乗客がもたれかかってくるのに顔をしかめる。


車中のとも。
片岡義男日本語の外へ (角川文庫)』(角川書店

洗濯機によって日常の洗濯はそれまでとは比較にならないほど楽になった。機械に洗濯をまかせているあいだ、人はほかのことをすることが出来るようになった。人はすでにいまにつながる多忙さのなかにあった。(p.557)


古いもの、たとえばつい昨日は、そのような世界のなかでは、ただ消えるほかない。技術そのものは、革新されていくプロセスのなかに開発の歴史として蓄積されるが、末端の大衆にとっては昨日が過去にすらなることなく、ただ消えていく。(p.560)


消費活動は自分の現状を肯定する手段だ。これをしないでいると、なにもしていない自分というものが見えてしまう。(p.563)


心が騒ぎすぎてやしないか?


「僕の国は畑に出来た穴だった」に入った。
これまでとはガラリと雰囲気が違う。航空写真の細かい描写から爆撃の話になる。

僕が爆弾の穴を最初に見たとき、その穴はすでに池になっていた。(p.577)


京阪で、出町柳まで出ずに、三条で降りた。大いなる決断だ。
たまにしか来ない京都で、飽きもせず同じようなルートで本屋をさまよい続ける僕が、
まさか、ここで電車を降りるとは!で、ブックオフに入る。
あまり集中できず、時間だけ浪費して外へ出た。
なるべく日陰を選んで市役所の方へと歩く。


初めて、100000tアローントコの看板に気がついた。
ここにあったのか。今まで何度もここを通っていたはずだが、
ぜんぜん気がついていなかった。でも今日はまだ、開店前だ。
そのまま寺町通を北上、首の後ろに陽射しが熱い。


ちょっと不安になってきた頃に、三月書房が現れた。
3、4人をお客さんが入っていて、邪魔にならないよう気をつけながら、
ざっと棚に目を走らす。欲しい本も見つかる。知的劣等感を刺激するような本も、
つぎつぎと冷笑を浴びせてくる。結局、八月の終わりの感傷を、
ことさら強調するために夏の日を詠んだ歌集を一冊買う。


購入。三月書房。
千葉聡『海、悲歌、夏の雫など (現代歌人シリーズ)』(書肆侃侃房)


そういえば、前回、三月書房で買ったのは、
チェルフィッチュの岡田さんの『遡行』*1だった。
あれ、読んでないなぁ。でも、なぜかここで買ったのを覚えている。
今日のこの本も、きっと後で思い出す気がする。


不在連絡票を見ながら、宅配便の再配達手配などをしつつ、
不真面目に路地をゆく。hmさんとの待ち合わせ時間が迫っている。
なんとなくこのあたりだろう、いや、これ以上行ったら違うな、
というあたりまで来てようやく、地図やらケータイを見る。


ふと向こうにhmさんらしき人影を発見したが、
ちょうどそのとき郵便局が目に入ったので、
さわや書店に、文庫Xの代金を送る。
郵便局を出るとさっきの人は、
もう見えなくなっていた。


その人が進んでいった道を行く。
何度も地図とケータイを見比べるのだが、
なかなか目的の店を発見できない。
しばらくして、気がついた。


瓦町と瓦之町と、違う!


通りをふたつほど、間違えていた。
ありました、レティシア書房。ガラス戸の向こうに、
さっきの人が立っていた。あぁ、やはりhmさんだった。
お知り合いなのだろうか、お店の人と談笑している。
目で挨拶して、棚に張りつく。ちくま文庫の群れ。
高原啓吾作品展「NECO」展のハガキもあった。


購入。レティシア書房。
辻潤絶望の書・ですペら (講談社文芸文庫)』(講談社


再び、路地へ出る。
日陰を選びながら、南へ。
さかなクンの自伝の面白さを熱弁するhmさん。
今日は、もじゃハウスさん宅へお邪魔するのだ。


美味しい食事と楽しい話に夏の午後は過ぎてゆく。
再び、さかなクンが話題にのぼった。
もじゃハウスさんの話に、
目頭を熱くしたり。


帰り、京阪が人身事故で運休中のため、
河原町〜烏丸/四条経由、日頃の小走りトレを活かして、
阪急→近鉄7分乗換@京都駅に挑むことにする。
思っていた以上に、バスターミナル横の通りが、
長い。それでも無事に近鉄特急に乗れました。


結局、特急乗っちゃったかー。


帰宅して、今日ごちそうになった山形の「だし」に、
さっそく挑戦してみた。レシピをネットで検索して適当にこしらえる。
味に関する記憶は全く使い物にならないので、再現できるはずがない。
でも、これはこれで美味しい。きゅうり、オクラ、大葉を投入。
豆腐にのせてみた。ポン酢をかけてしまったら、ポン酢味だ。


9月が始まる。


「まだ8月だから秋じゃない」と言っていた娘も、
諦めて秋を受け入れることだろう。