詩集を抱えて冒険へ

ゆうべ、酔って帰ってそれでも明日の、
持参本を選ばねば、と、ちょいちょい本棚の前に立ち、
歯を磨きつつ、前に立ち、机の上の山を眺めて、
いくつか本を手に取って、結局、一冊の詩集を。
そうしてしばらくして、もう一冊、文庫も。


今朝、なんとか目覚めておにぎりを解凍して鞄に放り込み、
駆け出す。疲れた走りでは、目当ての電車には届かず。
送品表に数字を書き込んでから、ハードカバーの詩集を取り出す。


車中のとも。
夏目美知子『朗読の日』(編集工房ノア*1


トンカ書店で、自室で、何度か開いて読んだ、
最初の「空の人」、「黄色い空缶」からきちんと読む。


奈良公園でてきた。装画装幀、林哲夫

花束の人はゆっくりバス停の方へ折れていった
私はそのまま坂道を降りて
本屋へ急ぐ


(p.41)


詩のことは、すっかり忘れて働く。
帰りの電車で再び、詩集をひらく。


車中のとも。
夏目美知子『朗読の日』(編集工房ノア


「移動動物園」読んだ。いしいしんじの小説を思う。
ぶらんこ乗り。「兄」がいるって、どんな感じなんだろう。
「帰ってこない兄」を思う時間って、どんな気分なんだろう。
僕は一人っ子なので永遠に、兄のことも姉のことも失わずにすむ。


読了。
夏目美知子『朗読の日』(編集工房ノア


いい時間だった。一日で読み終えるこの感じ、とてもいい。
でも、短かければ何でも良かったか、といえば、それは違う。
なにか自分にとって好もしい温もりがこの詩集に含まれていた、
ということなんだと思う。改めて、トンカさん*2にも感謝を。


しばらく、ぼんやりして、何かが自分の中で落ち着いたとき、
鞄をひらいて、文庫を取り出す。そこに、不自然な力みはない。


車中のとも。
斎藤惇夫冒険者たち―ガンバと15匹の仲間 (講談社文庫 さ 12-1)』(講談社

時々、もっと他に何か考えることがありそうだと思うこともありましたが、それが何であるかは自分でもわかりませんでした。(p.9)


ガンバのお話は、小学校で同じクラスだったいとう君に借りた、
箱入りハードカバーの岩波書店のやつで読んだはずだ。
全く覚えてない。いきなり超面白い。


ガンバが、穏やかな日常を置いて海に出かけるのは、
「冒険」を求めていたからなんだろうか。
マンプクに図星を突かれた描写はない。
むしろ、気のいい友だちにつき合ってやろう、
くらいのアレだ。


ぼくは、どうだろう。奈良に流れ着いて、
大阪の本屋さんで作業員して、ずいぶん幸せだが、
この先、海を求めて家を出ていくことはあるだろうか。


海を、見に行くひと。海を、見に行かないひと。
ぼくはおそらく、見に行かなひとだ。それでも、今、
妖しい夕焼けを見て、こころがざわついている。


冒険の記憶は、あったろうか。そういや、
「君は、冒険した方がいい」って演出家に言われたことがあったな。
あれから何年たったか。家の中で、あれこれ思い出す冒険の記憶は、
あったろうか。もうこれで、十分だろうか。