京阪両取り、月曜日

将棋エッセイコレクション (ちくま文庫)


健康診断にゆく。
2年前だったかに、文庫本を持って回って、
ほとんど読む間もなくただ煩わしかったので、
今回もほとんど検討することもなく手ぶらだった。
ところがはじめ、思ってたよりも待たされて、
そういうときに限って、文庫を持ってる人が、
何人も目に入って、あぁ、やっぱし、
持ってくればよかったかな、
と悔しい思いをした。


けれども結局、待たされたと感じたのは、
最初のところだけで、あとはすいすいと進み、
例によって採血は横になって心臓バクバクもんだし、
おなじパジャマを着せられた老若男女を眺めていれば、
あっという間に全行程は蒸発し、たとえ文庫本を持っていても、
読みかけの箇所を探しているだけで終わったことであろうよ。


そうして、午前中、大阪の通りへと放り出されたわたしは、
茶店に入ろうかと思って、やめて、心斎橋まで歩き出しては、
引き返して、そうして地下鉄へと乗り込んだ。


車中のとも。
後藤元気:編『将棋エッセイコレクション (ちくま文庫)』(筑摩書房


鈴木宏彦「さようなら、村山聖」を読んだ。
だんぜん、『聖の青春』*1を読み返したくなる。
実家の父に、リクエストを出さねばならぬ。


水無瀬で下りるのは、
3度目か。4度目か。
今日は、店に入るなり、
長谷川さんに目で挨拶。


「読書の時間」フェアをつっつきながら、
長谷川さんとお話。ときに笑顔で、すぐに真剣なまなざし、
柔らかい口調に練りこまれた長谷川さんの人生。
あたりさわりのない相槌をうちながら、
胸を冷やす。とりよ、おまえさんは、
きちんと本屋を勤めているのかい?


北村さんの紹介していた宮沢賢治の書簡集や、
ヒトノホン棚にある片岡義男にこころひかれながら、
妻に頼まれた本を買って、長谷川書店を後にする。
JR島本駅へと、初めての道をゆく。


購入。長谷川書店。
村田繭子『女の子のシンプルでかわいい服 (Heart Warming Life Series)』(日本ヴォーグ社)


本屋さんを訪ねたら、出来れば本を買いたい。だから、
美味しそうなパン屋さんの横は、涙を飲んで素通りする。
妻に頼まれた本を買うのも、嬉しい。何か、
お墨付きをもらった気分だから。


頼まれ方が、バシッと書名でなく、
「こんな感じの本を」というのも、
選ぶ余地があって嬉しい。


結局、買い物が楽しいのだ。


駅のホームから、遠くに見える緑が優しい。
車窓を楽しむ間もなく、すぐに長岡京に到着した。
改札を出て、なんとなく足を向けたほうに、
バンビオという文字が見えた。建物が、
ふたつある。こっちかな、という方に、
進んでいけば、「本」という文字が。


よっしゃよっしゃと進んでいけば、
本屋らしきムードが漂うものの、
入り口がない。ない、と思いきや、
あれか、この、木の、あぁ、そうか、
恵文社バンビオ店、て、恵文社さんか。


恵文社一乗寺店も、あれは、なんというか、
本屋さんという外観ではないものね。
恵文社一乗寺店」という、
お店だものね。


おなじ恵文社でも、一乗寺店とバンビオ店では、
違う、違うのだろうけれど、入り口の、なんというか、
本屋というよりも、ヘンゼルとグレーテルが迷い込みそうな、
怪しい森の入り口といった雰囲気は、似てますよ。


飛び込んで、視界がぱっと開けていて、すっと左に旋回、
原画展。すすっと進めば、児童書売り場、すぐに反転、
右の方へ引き返せば、新刊台、レジが見える。
あぁ、知っている人の顔が見えた。
ラクタ携帯をいじって、
探している本の画面。


驚く知人の視線をかわすように、
小さな画面を差し出して、
検索してもらう。


今思えば、照れ隠しですな。
訪ねる方も、なんとも面映ゆい感じがするのだと、
こうして文章にしてみて気がついた。


ちなみに、その本は、なかった。


そうですか、そうですか、
いいんですよ、あいさつのきっかけに過ぎないんですから。
閉じたケータイをポケットに突っこんで、レジの奥、
コミック売り場を足早に通り過ぎる。
雑誌コーナーも横目で流す。


む?雑誌の下に、書籍が?
この本を、この雑誌の近くに。
ははぁ、なるほどなるほど、と、
自分の職場の本たちの、別の顔が見えた気がする。
ぬお!『若冲』を、ここで面陳!むむむむ。


あわよくば、王子公園まででばろうかと思っていたのだ。
長岡京か、王子公園か、長谷川氏にご意見を乞うと、
「両方」とのお答えだったもんですから。


そうして、けれども、なんとも混沌としたこの、
初めて訪れた本屋さんは、なかなかぼくのレーダーを、
チューニングさせてくれないので、うろうろと、ぼくは、
うろうろと難破船のようにさまよいつづけたのである。


購入。恵文社バンビオ店。
荒井良二ぼくの絵本じゃあにぃ (NHK出版新書)』(NHK出版)


店を出たときはまだ、阪急線で西を目指すつもりで、
長岡天神駅へと向かったのだ。そうして、乗り換え案内をにらみながら、
せまい道まで入ったとき、かすかな頭痛を覚えてぼくは、ひらり、
来た道をいちもくさんに駆け戻った。JR線に飛び乗って、
そのまま京都駅へと突き進み、近鉄電車に逃げ込んだ。


目一杯駆け回るのもよいが、余力を残して帰るのも、
なかなかに幸せなことです、と、自分に言い聞かせ。


ちょいちょいと、妻の目を盗んで読み進めて、
夜に、ようやっと読み終えた。面白かった。


読了。
後藤元気:編『将棋エッセイコレクション (ちくま文庫)』(筑摩書房