帯にも負けず

なずな (集英社文庫)


送品表は一枚きり。
乾いた傘を膝に挟んで、
鞄から文庫を取り出す。


車中のとも。
堀江敏幸なずな (集英社文庫)』(集英社


緊迫した入り口からぐいっと引きずり込まれて、
引っ越してきた夜の話まで一気に読む。


まだ赤子のことはほとんど描かれていないのに、
こんなに奥まで連れていかれたのでは、
危険すぎる。社会生活が破たんする。


イクメン」ということばが、あまり好きでなく、
そのことばをあしらった帯に、買うのをためらったくらいなのだが、
単行本で読んで、その世界の確かさは感触さえ覚えているほどなので、
目をつぶってレジに持っていった。あれは、去年のことだったかしら。


すでに面白さを知っているわたしでさえひるんだのだから、
イクメン恐怖症」の男女がこの文庫を手に取れない危険性は、
なきにしもあらずか。おそれるな、ともよ。赤ちゃんの不思議さと、
いとおしさを、これほどまでにことばにしてくれる本を、
イクメン」ということばが怖くて手に取れないのは、
あまりに惜しい。


「帯なんてはぎとって早く読め!」
とは、都甲幸治『狂喜の読み屋 (散文の時間)』(共和国)の帯文です。


もっとも、「イクメン」ということばにひかれて手に取ったひとも、
たくさんいるはずで、その人たちに開かれたドアを閉めるつもりはなく、
ただ、誰かのために開いたドアのせいで、他の誰かの入り口がふさがってしまったなら、
そのふさがった入り口を黙ってまた開きたい。わたしの信じる誰かのために。


そのことでまたふさがれた入り口については、
すいません、どなたかよろしくお願いします!


ああ、またもや駄文を連ねてしまった。


あのですね、ほんとうに、「なずな」いいですわ。


ますぼん母さん、再読の感動を伝えてくれて、ありがとう。
帯に負けずに、読みだしました。すごく面白いです。(私信)