コバトさんとボリクさんとヨウコさんと

七五三の写真を受け取りに自転車こいで坂を上る。
せっかくここまで来たのだからと、南果さんを覗きにまた坂上る。
と、何やら大盛況の様子に、今度は坂を下りて、コバトさんに飛び込む。
ひとつだけ空いたテーブル。ありがたい。


「お時間かかりますが、よろしいですか」
はい、あたしにはヨウコさんがいる。


お昼のとも。
平松洋子野蛮な読書 (集英社文庫)』(集英社文庫


ここ数日ちょびっとずつしか読み進められなかった「わたしの断食一週間」を、
ようやく読み終えた。わずか数行しか読めないときでさえも、
じんわりと美味しい文章が読書のよろこびをくれるので、
胸はって「今日も本を読みました」と言えるのだ。


食後に、読み残した分をさらって読むと、
第一章「贅沢してもいいですか」が終わった。
第二章は「わたし、おののいたんです」となる。
そろそろ、コバトを出よう。ごはん、美味しかったです。


それにしても、南果さんといい、コバトさんといい、
ひとりでやってるのに、こんなに美味しいごはんを出してくれて、
すごいお店だ。どちらも高畑にあって、すぐ近く、ってのも面白い。
靴を脱いでじっくりくつろぎたいときは、南果さん、
気軽に美味しいものを食べたいときは、コバトさん。


どんどん坂を下りて、そのままボリクさんに突入しようとしたら、
ドアが閉まっていた。わずかに早すぎた。13時半オープンだった。
自転車をおりて、ならまちを軽く歩いて戻ってきたら、
ドアは開け放たれていた。ありがたい。


今日も、ボリクブレンドの普通。カウンター、
本を読むにはちょうどよい位置に釣りランプ。


ふたたびヨウコさんの声に耳をかたむける。
荒川洋治の『ラブシーンの言葉』が出てきたが、
新潮文庫」という文字に慌ててケータイで検索。
はぁ、すでに2009年に文庫になっていたのか!
うちにあるのは、四月社の単行本、2005年。


ラブシーンの言葉 (新潮文庫)

ラブシーンの言葉 (新潮文庫)

ラブシーンの言葉

ラブシーンの言葉


荒川さんから宇能鴻一郎へと流れ込んだのち、
ふたたび『ラブシーンの言葉』に立ち返る。
逆サイドへのため息が出るようなパス回し。
ヨウコさんはさっさとゴールネットを揺らして、
池部良に挑みかかる。教室での思い出、映画のポスター、
そして書店の新刊コーナーで手に取る、一冊の文庫本。
モノトーンの観客席でぼくは叫び続ける。「ヨウコ!ヨウコ!」

そもそも、本との縁は奇妙なところがあって、あるときぷつっと途切れもするが、ふとした拍子にふたたびあっさり繋がることがある。そういうときは縁のしっぽを逃がさないほうがいいというのが、本との長年のつきあいのなかで得た教訓である。(p.126-127)


本を読んだり、店内の展示を眺めたりしてのんびり過ごす。
13日生まれの娘のためのケーキと、展示してあった作家さんのポストカードも買う。
妻から聞いていたのだが、改めて、11月24日で閉店する旨をうかがう。残念です。
来年に、すぐ近くにまたカフェを開くそうだが、全く同じ店は再現されまい。


すてきな時間をありがとうございました。
この喜びを、いつか誰かに、形を変えて。