ステフィとネッリよ、いつまでも

大海の光―ステフィとネッリの物語


今朝もカラスが鳴いている。
夜明け前のカラスの声は、不安になる。
昨日よりはちょっと早めに出たので、
売店でパンを買って電車に乗りこむ。


ケータイがない。
着替えるとき、置いたままだった。
送品表をチェックして、ステフィとネッリの物語。


車中のとも。
アニカ・トール、菱木晃子『大海の光―ステフィとネッリの物語』(新宿書房


ケータイを持っていないと、
乗換え途中のほんの短い時間が、
ふいに手持ち無沙汰に感じる。
単行本は取り出すのに、
ちょっと気合いが要る。


それでも、ステフィとネッリにかわるがわる持ちあがる事件が、
わずかな時間でも本を取り出すようにぼくを急き立てる。


職場でPCを立ち上げて、発注作業に取り掛かる前に、
妻にメールを送る。「マタけーたいワスレタ、ナルベクハヤクカエル」


送られてきた商品を入れ替えて、
段ボールに詰めて返品。この作業は、
誰かの幸せに貢献しているだろうか。


約束通り、早めに退勤。
ケータイがないと、本へのとっつきが早い。
一気に読み干すべく、身をひるがえして本へ飛び込む。


途中、思わず単行本をあたまにかぶってしまう。
ああ、おお。これまでの4冊の道のりが一挙に脳を駆け巡る。


読了。
アニカ・トール、菱木晃子『大海の光―ステフィとネッリの物語』(新宿書房


意外にも、著者あとがきがあった。作品の成り立ち、
アニカ・トールと物語との「関係」がなんとなしに知れて、良かった。
訳者あとがきに、「本書の巻末には素晴らしいあとがきを頂戴しました」とある。
原著にはないあとがきなのだろうか。


ステフィとネッリの、その後の話も読みたい、と強烈に思った。
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』のときにも、思った。
けれど今回は、この後の、ステフィとネッリの人生に対する心配は、なかった。
見てみたいとは思うけれど、ふたりなら、だいじょうぶだろうな、という気もする。
「世界の終わり・・・」は、まだまだ目が離せない感じだったけれど、
ステフィとネッリの未来は、きっと、だいじょうぶだと思う。
菱木さんのことばにあるように、ふたりはいつまでも、
僕の心の中で生き続けるだろう。

別れに言葉はなかった。言うべきことは、もうすべて語りつくしていた。(p.293)