読んだら、わだち

僕の俳優修業


車中のとも。
長塚京三僕の俳優修業』(筑摩書房


気になる一節。p.122

 旋律は消えても楽想は残るように、また科白はとうの昔に忘れてしまっていても、かつて別の人生を生きたという確かな手応えが俳優の身体のどこかで息づいているように、たとえ書物の内容がおぼろげになったとしても、束の間条理の則を超脱して、連帯と共存を分かち合おうと努力した意志の発露は不滅であって、それは「書物が」あるいは「著者が」僕のもとを去り際に見せる嫋々たる後姿のイメージとして僕の記憶に焼きつけられ、生涯消えることはないのである。