2015 五本の指


例年なら年明け早々にまとめる「五本の指」、
一昨年はぎりぎり1月末に更新したが、
今年はとうとう、2月になってしまった。
しかもいつもなら、前準備としてブログ記事の振り返りなどは、
ちょいちょい進めていたのだが、今年はそれすらできなかった。
今日、2月も3日になってから、去年のブログを読みなおす。


そうして、ちょっとうんざりした気持ちになる。
なんとまぁ、あれがたった1年前のことなのかね。
去年の1月の記事を読んだだけでお腹いっぱい。
しかも、2016年の1月は終わってしまっている。


いわゆる「年を取って年月の経つスピードが速く感じられるようになる」
ってやつのことなのかしら。それすら、よく分からない。
もっと昔のことのようなのに、たった1年前のこと?
っていう感覚って、その加齢による感覚変化なのか?


そんなこんなで、記事の中の本のことや、
本屋さんのことを拾っていって、2015年の、
五本の指を選定しようと抜書きを作っていく。
読んでとても良かったと思った本のことを、
すっかり忘れていたりもして、まぁ、
毎度のことながら、ため息をつく。


2015年も、記事にしきれなかった本が何冊もある。
ツイッターで言及したものに関しては、別に検索して、
あとは、だいたい去年買った本が並んでいる棚のあたりから、
キッチンカウンターに持ってきて並べたりする。


では、2015年の、五本の指です。

い:小川洋子平松洋子『洋子さんの本棚』(集英社
ろ:レイ・ブラッドベリ伊藤典夫華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)』(早川書房
は:吉上恭太『ときには積ん読の日々』(トマソン社)
に:田口史人『レコードと暮らし』(夏葉社)
ほ:内堀弘ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)』(筑摩書房


「い」は、2015年が始まってすぐから、ずっと買おう買おう、
と思っていて、楽しみにしていた一冊。期待通りの充実さ。
本についての本はたくさんあるけれど、対談、というのと、
ふたりの年齢や出身地の近さなどが手伝っているせいか、
ひとりの人の読書話が倍音で聞こえている、みたいな感じ、
という点で、極めて面白い「本の話」が聞けました。


「ろ」は、ほんと珍しく、海外小説の、しかも古典を読んで、
ばっちり、やられちゃいました。7月の強行採決あたりの政治状況にうんざりしている中で、
ぜんぜん絵空事じゃないですよこれ、っていう恐ろしさが、でもまぁ、
読書体験としてはとても面白かった。いや、でもこれ怖いんだよな。


「は」は、「ミュージシャン」吉上恭太のほにゃほにゃエッセイ。
文章を読んでいると、編集者・ライターとしての人生の方が長いのかもしれない、
とも思ったけれど、僕が吉上恭太さんの名前を知ったのは「歌い手」としてだった。
そんな吉上さんの、音楽や文章やらに対するゆったりと熱い思いを読んでいると、
僕もがんばって暮らしていこう、という気持ちになれる。ときどき読み返したい。


「に」は、なんというか、うまく言えないけど、これまで読んできたのとは、
毛色の違う本だった。音楽に限らない、数々の不思議なレコードを紹介しながら、
「いろいろな人生があるのだなぁ」と唸る声が止まらない。しかもその「人生」を、
伝えてくれているメディアである「レコード」自体が虫の息、というところが、何か、
時代なり、生物種なりの「絶滅」に立ち会っているようなシリアスな気分にもさせられたり。
12月には、奈良で田口さんの「レコード寄席」にも参加できて、大満足。
今後とも、レコード、田口史人さんに注目していきたい。
レコードプレイヤー、欲しい。


「ほ」は、ちくま文庫の「復刊」の一冊。もともと、
そういう本があるのは知っていたし、復刊したのも知っていたけど、
特に購書リストには入れていなかった。北村さんに会いにあべのに出かけて、
その日、一冊何か買おうかな、というタイミングで連れて帰ったのだけれど、
思いがけないパンチ力のある本で、読み進めるほどに足元はぐらついて、
最後の最後、思いっきり重い一撃を受けてノックアウト。すごかった。
歴史に残らない無名の人生に光を当てて、それを文章にする。
そうしてそれを、この自分が読んでいる、という全体が、
鳥肌ものでした。内堀さんの他の本も、読みたい。


はい、で、こぼれ落ちたたくさんの本についても、
書き散らさずにはいられまい。駆け足で2015年を振り返る。


去年、出版業界を大いに盛り上げてくださった又吉センセイの「火花」、
始まりは、『文學界 2015年 2月号 (文学界)』(文藝春秋)でしたな。
私も、こいつを買って読みました。又吉直樹「火花」、面白かった。


そうして年明け早々のOSKでSさんにおすすめいただいた北村薫
こいつにバッチリはまりまして、見事、旧作5冊を読破、
なんと新作も刊行されまして、こいつは未読未入手です。


北村薫空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)』(東京創元社
北村薫夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)』(東京創元社
北村薫秋の花 (創元推理文庫)』(東京創元社
北村薫六の宮の姫君 (創元推理文庫)』(東京創元社
北村薫朝霧 (創元推理文庫)』(東京創元社
北村薫太宰治の辞書』(新潮社)


2月にはブクブク交換会@hm印、森本書店さんをはじめ素敵な面々とお知り合いになったのも、
まだ1年ほど前のことだったのですね。まさか年内に古本屋さんが開店するとは!
そしてバレンタインには、長谷川書店さんで世田谷ピンポンズライブ!
月末には、とほんさんの1周年を祝して路上ひとり芝居を敢行、
同じ日に「のほほんとほん」西尾勝彦さんのイベントに参加。
ピンポンズライブは、10月にも、やはりとほんさんで参戦。
長谷川さん、とほんさん、ピンポンズさんの三角形、
そこを駆け回る、とりひとり。ああ。


そうそう、その長谷川書店さんでピンポンズライブの日にようやく、
夏葉社『本屋会議』を購入したのでした。『レコードと暮らし』もそうですが、
『いちべついらい』、『小さなユリと』も、同時刊行、夏葉社さん。
それに合わせて「ゆっくり読む」のフェアにも参加させていただき、
同時代の「本屋さん」たちの熱意に、身が引き締まる思い、束の間。


本屋会議』(夏葉社)
橋口幸子『いちべついらい 田村和子さんのこと』(夏葉社)
黒田三郎詩集 小さなユリと』(夏葉社)


「いちべついらい」周りで、これらも読みました。
橋口幸子『珈琲とエクレアと詩人 スケッチ・北村太郎』(港の人)
田村隆一自伝からはじまる70章―大切なことはすべて酒場から学んだ (詩の森文庫 (101))』(思潮社


お誕生日にいただいたきっかけで、ちばさとさんの本も2冊。
どちらも、良かった。この2冊目はツイッターで教えてもらった。
千葉聡『今日の放課後、短歌部へ! (単行本)』(KADOKAWA/角川学芸出版
千葉聡『飛び跳ねる教室』(亜紀書房


朝日出版社さんからの2冊は、どちらも五本の指に入れたかったのだけど、
多くの人が2015年の収穫として推薦してらっしゃるので、ぼくは遠慮してみた。(←意味不明)


武田砂鉄『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社
岸政彦『断片的なものの社会学』(朝日出版社


この元本も、朝日出版社さんからの刊行でした。
國分功一郎暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)』(太田出版


難しかったけど、面白かった。こういう本を、ときどきでもいいから、
しっかり頭にたたきこんでいきたいなーと思う。次のも、そんな一冊。


佐々木敦あなたは今、この文章を読んでいる。:パラフィクションの誕生』(慶應義塾大学出版会)


屍者の帝国』や円城塔への興味が芽生えた。まだ育ってないが。


I.ボーゲル、掛川恭子『ふたりのひみつ (1977年) (あかね世界の児童文学)』(あかね書房


こいつは、図書館で読んだ。図書館にはあまり行けなかったけど、こういう古い名作に会うために、
図書館のありかたにも、目を配っていきたい。いろいろありましたからね、2015年、図書館も。


移転したボリクコーヒーさんにて、少しずつ読み進めていたのが、よしお。
決まったシチュエーションで、長期的に同じ本を読むのはとても楽しかった。
選書も、ベストでしたな。


片岡義男バラッド30曲で1冊 (角川文庫)』(角川書店


あとはちょいちょい、京都に行っては、善行堂に顔を出しました。
善行堂に買いに行った本。
野呂邦暢岡崎武志小山力也野呂邦暢古本屋写真集』(書肆盛林堂)
『SUMUS別冊:詩と文』(古書善行堂)
黒島伝治山本善行瀬戸内海のスケッチ―黒島伝治作品集』(サウダージブックス)
岡崎武志気まぐれ古本さんぽ』(工作舎


『瀬戸内海のスケッチ―黒島伝治作品集』は、面白かったなぁ。
休みの日、一冊、じっくり読んだのを思い出す。あれ、記事にできなかったなぁ。


京都では、はんのきさんも移転しちゃうし、
ホホホ座開店(一回だけ、去年行った)、
堀部さんの一乗寺店引退から誠光社開店と、
いろいろ変化があって、善行堂に通いつつ、
ちょいちょい顔を出していきたいなぁ。
誠光社に、はやく行きたい。



京都だけでなく、兵庫もね。
『海の本屋のはなし』大読書感想会に合わせてようやく、
古本屋ワールドエンズガーデンさんに顔を出したその日に、
1003、書肆スウィートヒアアフターと回ったのは、9月。
スウィートさんは、けれど12月に実店舗閉店とな。
いつまでも、あると思うな云々ですな。
時間を作って遊びに行きたい、兵庫も。


さて、もうそろそろ、疲労が限界なので、
SMAPみたく前を、とにかく前を向こうかと思って、
最後に、本の本だけ、ざーっとね。


稲泉連復興の書店 (小学館文庫)』(小学館
次の本へ』(苦楽堂)
松岡享子『子どもと本 (岩波新書)』(岩波新書
ミシマ社編『THE BOOKS green 365人の本屋さんが中高生に心から推す「この一冊」』(ミシマ社)
石橋毅史『口笛を吹きながら本を売る: 柴田信、最終授業』(晶文社
宇田智子『本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)』(筑摩書房
荻原魚雷書生の処世』(本の雑誌社
西山雅子:編『“ひとり出版社"という働きかた』(河出書房新社
平野義昌『海の本屋のはなし―海文堂書店の記憶と記録』(苦楽堂)
杉浦範茂『絵本の絵を読み解く』(NPO読書サポート)
北條一浩わたしのブックストア(文庫) (アスペクト文庫)』(アスペクト
津野海太郎百歳までの読書術』(本の雑誌社
森岡督行『本と店主: 選書を通してわかる、店主の原点。店づくりの話』(誠文堂新光社
田口幹人『まちの本屋』(ポプラ社


いやぁ、面白い本を、たくさん読んだなぁ、ありがたいなぁ、
今年も、もう2月になっちゃってますけど、ますます、
ステキな本に出会えますように。そうしてまた、
ステキな再読の時間を味わえますように。


新しい本屋さんにも出会いたいと思う一方で、
大好きな本屋さんたちにも、また、足を運びたい。


わたしのこの、ちっぽけな人生が、
本と本屋さんとを愛する人々の、
なにがしかの助けになりますように。


2014 五本の指
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