夏葉社と長谷川書店と、漕ぎ出す力

レッド・ブック (児童図書館・絵本の部屋)


岡崎武志さんの『親子の時間』*1が欲しいな、
と思っていて、それはオカタケ師匠のブログで知ってから、
ずっと思っていて、でも、岡崎さんの本で、夏葉社の本なら、
善行堂*2で買いたいな、と思っていて、とほんさん*3や、
啓林堂書店奈良店などでも手に取ったけれど、
京都に行くタイミングをうかがってしまって、
それで今日、善行堂に行こうか、長谷川書店*4に行こうか。


長谷川書店では、夏葉社さんの5周年記念の、
得地直美さんデザインのトートバッグが売っているはずで、
たぶん一番初めにその存在を知ったのは、空犬さんのブログに、
島本店が閉店になるという記事*5を読んだのがそれだと思う。
そのあと、すべからくさんや、とほんさんや、何人ものひとに、
「長谷川書店さんいいですよー」という声をいただいて、
ぼくのなかにぼんやりとした憧憬が降り積もっていた本屋さんだった。


トートバッグは、長谷川書店とおひさまゆうびん舎*6と、
限定それぞれ15部のみの店頭販売、と聞いた。*7
タイミングだ。しかし、とも思う。トートバッグを買うより、
『親子の時間』を買うべきなのではないか。いや、
それよりも何よりも、部屋に散在している夏葉社の本を、
読むべきなのではないか。他にするべきことがあるのではないのか。


善行さんの日記で、今日の動向をうかがう。
12時から営業するらしい、最寄り駅はデマチ、
出町柳からなら、あのレンタサイクル屋で自転車を借りて、
そうしてついでにガケ書房にも寄りたい。


自転車といえば、うちの自転車のスタンド部分が不調で、
昨日は妻が朝、自転車を使えずに急遽タクシーを呼ぶ羽目になった。
わたしは今日、そのスタンドをどうにかする役目を仰せつかっていた。
15時半には、奈良に帰還したい。


途中までは、善行堂と長谷川書店をはしごするつもりでいた。
長谷川書店のある水無瀬という駅は、阪急電車の駅で、
関西の交通に明るくないわたしにとっては、「え?京都近いじゃん」
てなもんで、合わせて行かずにどうする、という位置関係だったのだが、
善行堂・レンタサイクル・ガケ書房というセットメニューが、
現実に引き戻してくれました。詰め込みすぎ。


いっそどこにも出かけない、という選択肢を左手に握ったまま、
本棚の前に立つ。出かけるとして、どの本を持って行こうか。
善行堂に行かないなら、善行さんの本はやめておこう。
(善行さんに会いたくなってしまう危険性がある)


読みかけの『近代日本の文学史*8も、
『昔日の客』*9も気になるが、ぴしりと来ない。
再読だけれども、『あしたから出版社』を手に取る。むき身にして鞄へ。
そうして、長谷川書店だけを目指すことを決心していた。


車中のとも。
荒川洋治忘れられる過去 (朝日文庫)』(朝日新聞出版)

いいほめことばを読むと、うれしくなる。いいもの、すばらしいものがこの世にある、たしかにあるのだと思う。そしてそれが生きるための力になることがわかるのだ。(p.201)


初めて降り立った水無瀬駅。パンの匂いがしている。
ホームに滑り込む前に車窓から見えた団地の風景にも、
何か親しい気持ちを覚えている。天気もいい。


改札口を出て左へ。匂いのもとをたどって、
パン屋を探す。思いがけず大きな店構えのカフェレストランが、
おそらくホームへ匂いを流していた「犯人」のようだ。パンを購入。
高架をくぐって、歩きながらパンをかじる。


出がけにチェックしたホームページによれば、
駅近くに2店舗あるはずで、夏葉社フェアをやっているのは、
たぶん遠くにある方の店なんじゃないかと踏んで、まずは駅前店を探す。


交番の前を通って、先ほど出た改札口の方へ戻ってくる。
本屋さんは、どこだ、と路地の方へ視線を飛ばす。
不意に、視界に飛び込んできた。あった。
なんだ、改札を出て、すぐ右側、高架下ではないか。


そのまま店の前を通過して、パンを食べてしまうことにする。
先ほどは気が付かなかった島本町の観光地図の看板を眺める。
電車からも見えた山が気になって、いろいろと文字を追う。
地図の縮尺が体感としてすぐにピンと来なくて、悩ましい。


パンを食べ終えて、いざ。店の入り口脇のガラス面内側に、
雑誌が面陳してある。ここは、お客さんが手に取れないところ。
飾り棚。ぼくは、こういう飾り棚に雑誌を並べたことはないのだが、
どのくらいの頻度で入れ替えているのだろう。どんな仕組みで、
一見届かなそうな位置に雑誌を設置するのだろう。


よそのお店のことなのに、急に自分の仕事のように思えてきて、
うまくその仕事ができる気がしなくて、悲しい気持ちになる。
一瞬のことだけれど、ここのところ、こういう無駄な悲しみが頻発している。


入ってすぐ左手に、なんとなく力を入れてそうな棚があった。
新刊台、というのとも違う、ある特定のジャンル、でもない。
さっきの雑誌飾り棚の裏側にあたる部分には、絵本や詩集がある。
見たことがない谷川俊太郎さんの写真が表紙の本やミロコマチコさんの絵が表紙の、
あれは、『飛ぶ教室*10か。(すると、うちの店には前の号があるってことか)


レジの中にはおじいさんと青年がいる。親子なのだろうか。
雑誌をちらりと目に泳がせて、ふと、手書き手製の店内案内図に気付く。
味わい深い。今度は入り口右側の棚を見る。そこにも、手書きPOPというか、
内POPが貼ってある。なんというか、保育園とかで見るような、
非常に温かみの感じる、POPとは呼びにくい「紙」だ。


上のほうに文芸誌が並んでいる。人文書、文芸書などもある。
新刊も多い。気になる本も多い。原発の本もたくさんあるようだ。
よく見るといわゆる「嫌韓本」も混じっているが、印象が薄い。
どうやって並べたら、ああいった本を薄味にできるんだろうかと、
目をこらしてみるが、集中力が続かない。そんなことより、
さっきの気になる本だ。手に取ったり、戻したり。
こんな本が出ていたのか、知らないぞ。


レジを通り過ぎて、ふいに怪しい立て看板(?)の裏側が見えて、
もしや、いや、まさか、と思ったら、やはり島田社長看板であった。
すると、駅から遠い方のお店ではなく、こちらのお店で夏葉社フェアをやっているのか!
夏葉社の本がずらっと並ぶ棚。めちゃくちゃチャーミングな島田さんが、
何人もいて、ぼくの心をもみほぐしてくれる。すべての本にコメントカードがついているが、
おそらく島田さんの書いたものなのだろう。12冊のうち、6冊持っている。
半分か。思っていたより、持っていた。でも、読めてない本のが多いのが恥ずかしい。


得地直美さんの「本とそのまわり」展として、味わい深い絵が10点。
すでに売約済みのものもいくつもあって、そういうのに限って、
「これなら欲しかった!」という素敵なやつなのだ。
(まぁ、そうやって買わない言い訳を作っている気もする)


そうして、あっちゃこっちゃにこころをどきんとされる棚を発見して、
ぐるぐるぐるぐる、ぐーるぐるぐるぐる店内を巡回してまわる。
行きしの車内で荒川さんの詩についての文章を読みながら、
「長谷川書店さんでは夏葉社さんの詩集を買おう」なんて、
たくらんでいたのに、なんとも言えないいい感じの品揃えに打ちのめされ、
出来れば初めてその存在を知った本、初めて実物を見た本、よそで見つけにくい本などを
買いたいなぁ、と思い直し、初めて会った絵本を一冊、買うことにした。


もちろん、トートバッグも買いました。
夏葉社の本は買えなかったけれど、トートバッグには、
『親子の時間』も含めて、12冊の背表紙が、光っているのだ。


購入。長谷川書店。
バーバラ・レーマンレッド・ブック (児童図書館・絵本の部屋)』(評論社)


ご主人と話したところによると、今は、
駅から遠い方のお店(島本店)は、ないらしい。
というか、その閉店の記事を空犬さんのブログで読んだのだった。
あまりにもうろうろしているわたしのことを心配してくれていたらしいご主人。
そのお客さんに対する「心持ち」に、胸をしめつけられるような感じがした。


それは喜びであり、おおげさに言えば、感動ですらあり、
そしてやはりそこには、劣等感というか、嫉妬というか、
「自分もそうありたいけれど、とてもじゃないけどできません」
という思いがあり、いろいろと、胸をしめつけられたわけです。


気になる新刊。(既刊もあるデヨ)
山本美希ハウアーユー? (フィールコミックス)』(祥伝社
じぶんの学びの見つけ方』(フィルムアート社)
マルコロドリ、Marco Lodoli、岡本太郎赤と青 ローマの教室でぼくらは』(晶文社
加藤典洋人類が永遠に続くのではないとしたら』(新潮社)
今村光章『アイスブレイク』(晶文社
キッチンミノル、写真の学校/東京写真学園『フィルムカメラの教科書 (写真の学校の教科書)』(雷鳥社
キッチンミノル『多摩川な人々』(mille books)


読了。帰りの電車で。
荒川洋治忘れられる過去 (朝日文庫)』(朝日新聞出版)


車中のとも。
島田潤一郎『あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)』(晶文社


ページを繰って、扉の写真、サンドイッチのパックをわしづかみ、
と思いきや、本だ。プチプチに包まれた本だ。前に読んだときも思ったが、
サンドイッチ写真から、目次の背景の本の固まりの写真に到る一連の写真群だけで、
「生きるための力」をもらえたような気がする。原稿を見る島田さんの眼差し、
海文堂書店のしおり、カギをしめる島田さんのたたずまい。
そして、自転車で漕ぎ出す島田さん。


自転車のスタンドは、直りませんでした。
直りませんでしたが、どうにか使えるコツを発見しました。