とり、庭で森で千々に乱れる愛を叫ぶ

 

 

旅立つ妻子とともに近鉄奈良駅へ。

改札に入る前に3人分の傘を受け取り、

見送る。気をつけて、いってらっしゃい。

自分の傘をさし、3本の傘をぶらさげて帰宅。

洗濯物は、部屋干しだ。

 

 

夜の読書会へ向けて、いくつかの本を選んで鞄へ入れる。

「これは重たいから置いていこう」と思っていた本も、

当日テンションで、持っていくことにする。

そうして、意識のすきまで企んでいた、

途中下車してオザワ書店に行くことを、

決心する。ひとり芝居の台本も、

持っていくことにする。

 

 

気がつくと、昼食の時間がなくなっていた。

駅の売店で調理パンを買って、食べる。

前回ワールドエンズガーデンに行ったときも、

空腹を抱えて商店街をさまよった記憶が・・・。

 

 

車中のとも。

文藝 2019年秋季号』(河出書房新社

 

 

斉藤真理子と鴻巣友季子の対談「世界文学のなかの隣人」を読む。

 面白い。北朝鮮の存在があるから、南の文学は「何を目指すべきか」

という思想性、政治性が常に問われる、という斉藤のことばに、

環境が個々の文学に与える「傾向」というものがあることを、

思い知らされる。それはつまり、個々人の「意識」を、

左右する、ということである。

 

 

鴻巣 『私』が繁殖して『私たち』になっていく。こういう連帯感は必要なんだけど、同時に『私たち』という大きな主語で語ってしまうことの怖さもあります。(p.61)

 

 

『文藝』は、かなり厚くて、今日に限らず何度も鞄に入れるのを諦めたのだった。

読書会のおかげで、読むに至った。嬉しい。買うにも、読むにも、訪れるのにも、

きっかけって重要なんですなぁ。1003にも、ありがとう。

 

 

続いて、チョ・ナムジュの「家出」を読む。キム・ジヨンと同じ作者。

可笑しいところも次々と出てきて、面白い。「キム・ジヨン」とはまた、

違った面白さ。訳もいい。乗り換えるとき、『文藝』を手にしたまま、

歩く。次の電車に乗りこむ。手の中の厚みを頼もしく思う。

 

 

大阪で、山陽本線新快速に乗換え。

西加奈子の「韓国人の女の子」を読みだす。

すごい。面白い。面白いばっかり言っている。

芦屋で各駅停車に乗換え。もう雨は上がっている。

ぼくは長靴をはいている。西加奈子は読み終えた。

 

 

押しかけオーディション、ということばを思いつく。

先日、小沢さんと飲んだときに、ワールドエンズさんでひとり芝居を、

という話が出たのだったが、妻には「おあいそでしょ」といった反応をもらい、

確かに一度も観てもらっていない段階でお願いするのは図々しかった、

と、反省したのだ。そうして、今日、久しぶりにお店を訪ねて、

あわよくば店内で台本を朗読してみたい、と企んだのだった。

 

 

 

 駅の北側に出る。うっすらとした記憶。駅前のひろばのようなところに、

地図があった。見れば、三ノ宮、元町もすぐそこではないか。そうか、

こんなに近いところに世界の終わりがあったのか。もっと大阪寄りかと。

かすんでしまった記憶を頼りに歩き出す。確か、高架のそばだった、

とウロウロしていると、思いがけず、看板を見つけてしまった。

 

 

古本屋

ワールドエンズ・ガーデン

スグソコ

 

 

どしゃ降りで閑散とした店内を想像していたが、

晴れてきたなー、おとなしく棚を拝見しようか、

と傘を入り口のところに置いて店内へ入ろうとすると、

むむ、人がいっぱいで、入りにくい。引き返して、

窓から店内をのぞけば、ちょっと、そうとう、

いるよ、オーケー、オーケー。そのまま、

高架下の壁のほうに突っ立って、

外観を眺める。

 

 

カラスが地面に落ちたセミかなにかをくわえて、

電柱の上へと飛び去っていった。

 

 

店から、お客さんがいっぺんに出てきた。

御一行様なのか。7人もいる!それでは、と、

再び、入り口へ。小沢さん、こんちは、来ました。

全員お客さんがいなくなったかと思ったら、なんとなんと、

まだ何人か、お客さんがいた。オーディションの申し込みを済ませて、

久しぶりの、ディナーテーブルから順番に本を見てゆく。

わー、楽しい。世界の終わりの本棚探索。

 

 

お客さんが途切れず、もう、このまま本を買って元町へ向かうかな、

と思ったころ、ふっとお客さんが全員、いなくなる時間が生じて、

台本を手に、「令和41年の読書の害について」を演じる。

窓の外を通りがかった労働者風の男性が、

「がんばれよ!」と声をかけていった。

 

終盤に、おひとり、来店されたお客さん、棚を眺めながらずっと居てくださった。

いったい、なにごとかと思っただろうか、お騒がせしました。ぼくが帰ってからも、

そのお客さんはまだ、本棚をじっくり、検分してござった。

 

 

購入。古本屋ワールドエンズ・ガーデン。

田村公人『都市の舞台俳優たち:アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって (リベラ・シリーズ11)』(ハーベスト社)

 

 

ワールドエンズさんでの上演について、いくつかの妄想をオザワさんに託して、

ふわふわした気持ちで灘駅へと戻る。JRで、元町へは、あっという間に着いた。

頭で思い描いていたよりかは遅くなってしまったが、とにかく1003へ向かう。

店内には、お客さんがおひとり。ちおさんに目で挨拶して、入り口を入って右へ。

 

 

書肆侃侃房の、旅の本のフェアがやっていた。かんかんぼう、

短歌の本だけじゃなかったのか。こんなにいっぱい、旅の本が。

ちおさんに、花森書林さんの位置を教えてもらう。神戸の、

古本屋マップにていねいに路地を描き加えてくれる。

ガラケー民には、ほんとうにありがたい地図。

「こっちもぜひ」と、近くの古本屋さんも。

 

 

 

 

購入。1003。

大西寿男、大場綾『かえるの校正入門』(かえるプレス)

 

 

途中、コンビニでサンドイッチを購入、歩きながら、

空腹をなだめて、マップを見ながら路地を探す。

ぽっかりと、異世界への入り口が開いているように、

花森さんの店の中は、明るく輝いていた。

 

 

レジに立つ女性への挨拶もそこそこに、

岩波少年文庫の群れに襟首をつかまれる。

高橋健二訳のケストナーは、ない。ないけれども、

頼もしいカラフルな背表紙の並びよ!

 

 

そして、本と共に棚に並んでいる雑貨の数々。

そうだった、そうだった!トンカさんは、そうだった!

この、狂おしく愛らしい雑貨の行進に、なんだか、

ニヤニヤと、わくわくとしてくるのが、楽しかったのだ。

 

 

文庫、新書、マンガ、あまり見ないような本もたくさんあって、

雑貨に心をこづかれながらも、しっかりと古本魂も刺激されて、

はー、楽しいな、楽しいな、と思いながら、ふいに、心臓が止まる。

ギョッとする一冊を棚に見つけた。今江祥智、『モンタンの微苦笑』とな。

 

 

これはー、これはー。

いつだったか、「今江祥智がエッセイで書いてたモンタンの本、

出版されなかったんかいな」とネットで検索したら、私家版で、

限定販売されたのを知って、欲しいな、絶対見つからんな、

と諦めながら憧れていた一冊ではないか。

 

 

善行さんにも、メールで問い合わせしたこともあった。

沖縄の古書店で通信販売して入手、というブログも読んだ。

 

 

あー、まさか、花森さんで出会えるとは。

他の人に買われるはずもないが、棚に戻すのも恐ろしく、

抱えて、店内をまわる。けれど、もう、気もそぞろで、

この本を買える喜びをかみしめるためだけに、

背表紙をたどっているようなものだった。

 

 

さぁ、レジに行こう、と思いながらふと、最初に見た、

岩波少年文庫の棚にもう一度目をやると、さっきは気づかなかった、

ケストナーの本があった。ふたりのロッテ高橋健二訳。あぁ、

これは、カバーなしの時代のやつか。トリヤーの絵がかわいい。

 

 

購入。花森書林。

今江祥智『モンタンの微苦笑』(私家版)

エーリッヒ・ケストナー高橋健二ふたりのロッテ』(岩波少年文庫

 

 

レジにいたのは、トンカさんだった。トンカさんにお会いするのは、

3度目くらいか。「トンカさんにも、2度ほどお邪魔したんですよ」とご挨拶。

「モンタンの微苦笑」と出会えた驚愕と歓喜については話し忘れた。

また遊びにきたいな。いいお店だな。人柄だな。

 

 

少し濃くなった夕暮れの路地に再び。こんどは、古本荒野。

どんな荒々しい棚が待っているのか、と恐れながら階段を上る。

重そうなドアに若干ひるむ気持ちも芽生えたが、なぜだか、

『あたしゃ、ライオン堂のあの扉すら開けた男なのだぞ』と、

妙な「自信」に助けられて、店内へ。あら、いい匂い。

これは、新しい木の匂い?こんにちは、と声で挨拶。

店主は、棚の影のほうにひっこんだ帳場にいるらしい。

これはなんというか、気楽に棚を見ることができる設計。

著者の名前順、均一は均一で棚を変えて、という配置。

一冊ずつ、背表紙をたどっていく。楽しい、楽しい。

 

 

イベントの時間も迫っていて、思いがけず、散財したあとで鞄も重く、

なんとか1冊、文庫をレジへ持って行って、今日はご挨拶まで。

 

 

購入。古本荒野。

椎名誠銀座のカラス〈上〉 (新潮文庫)』(新潮社)

 

 

はてさて、すっかりギリギリになってしまった、と、

来た道とは違う路地を小走りで1003へ戻る。

受付はさっき済ませていた。保留にしていたドリンク、

アイスコーヒーに決めて走ってきたのだった。

 

 

ノートを取り出してすぐ、時間となり、飲み物の準備をするちおさんをそのままに、

司会のアリヨシさんが穏やかに話し始めた。

 

 

それから3時間ほど、濃厚な時間が流れた。

 

 

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読む会

 

日時:2019年7月27日(土) 19:00-21:00

場所:1003店内(神戸市中央区元町通3-3-2 IMAGAWA BLDG.2F)

参加費:500円+1ドリンクオーダー要 

持ち物:『82年生まれ、キム・ジヨン

当日、①『82年生まれ、キム・ジヨン』の中で印象に残った一節、
②この本の次にすすめたい1冊 を教えてください。

 

 

すすめられた本たち。

若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞』(河出書房新社

イ・ミンギョン、すんみ 、小山内園子 『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス)

鴻上尚史「空気」を読んでも従わない: 生き苦しさからラクになる (岩波ジュニア新書)』(岩波書店

ブレイディみかこぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)

川上未映子夏物語』(文藝春秋

レイチェル・ギーザ、冨田直子『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(DU BOOKS)

 

 

鞄に本はいろいろ入っていたが、読書会の濃密な体験が、

脳みそだか、心だかを圧倒していて、それでも何か読まずにいられず、

それははっきりと「逃避」なのかもしれないけれど、その、

逃げ出したい気持ちに応えてくれるのはこれしかなかった。

 

 

車中のとも。

椎名誠銀座のカラス〈上〉 (新潮文庫)』(新潮社)

 

 

下も買って来ればよかったかな。

 

 

いろいろと「やり過ごした」意見たちの中で、ぐっさりと刺さったことばは、

小さい子(1歳か2歳くらいか)の面倒を見るために、

女性は早めに帰宅することが期待されている、というやつだった。

 

 

バッサリ、失血死。

 

 

知らず知らず人を傷つけていることがある、という、

小学校に通知表に書かれたことばを思い出す。

 

 

不用意なリツイートで、傷つけてしまった人たちが、

少なからずいるのだろう。ごめんなさい。

 

 

7月6日配信の読書日記2通目を読む。

フヅクエラジオでおたよりが読まれていた。