「読みたい本」の話を聞きにゆく(1003編)

保育園へ子どもたちを預け、洗濯物を干してから、
神戸三宮行き快速急行に飛び乗った。飲み物は、なし。読み物は、あり。
シフトの調整で、イレギュラーに金曜休み。さてどうしようと迷うこともなく、
「読みたい本」の話を聞く企画に真っ先に声を挙げてくれた1003に。


できれば開店前にと思っていたのだが、ゆうべ遅かったせいで、
どうにも時間を捻出できず、開店直後の比較的空いているらしい時間を狙う。


読了。
片岡義男万年筆インク紙』(晶文社

「インクの空き瓶を静かに眺めていると、やがて時間を感じ始める。いまも経過しつづけてやまない時間の上に、かつてそこにありつつ経過していった時間、というものが重なってくる」(p.212)


ときどき現れる刺激的な文章にたどり着くために、
様々な万年筆にひたすらインクを入れる描写をじっと読む。
短編小説のなかで、女性のコミックス作家がまったく同じ三本の万年筆に、
三色違った色のインクを入れて使っているという説明があった。
何かを書くときに、「あの色で書こう」と思ったら、
どうやって見分けるのだろうか、と疑問を抱いた。
抱いたまま読み進めると、見分けないらしい。

インクが何色であるのか、よく見ればわかるのだが、彼女は見ない。ペンケースから取り出すときはまったくランダムで、まっ白な紙に書いてみて初めて、インクの色を知る。コミックスの作家である彼女の性格を、こんなところであらわすことが出来る。(p.253)


彼女の性格がどんなであるか、この描写からぼくにはわからないけれど、
なんとなく、面白い遊びだと思った。ちなみに三色とは、ヴァイオレット、グリーン、ブルーブラックだ。


最後の京都のところ、圧倒された。面白かった。ふたつの短編のタイトルもいい。
声を出して笑ってしまった。あとがきに、2016年9月、という日付が出てくる。
出たばかりの、しかも書き下ろしのエッセイを読むと、この作者と、
同じ時代を生きているんだな、ということが実感できる。嬉しい。


近鉄線を神戸三宮で降りる。終点だ。
元町に行くために、姫路行きを待つ。
これに乗ったままでいれば姫路まで行けるのか。
いつか、おひさまさんの「読みたい本」の話も、
聞きに行く日がくるだろうか。でも今日は、
元町に行くのだ。ひとり、ひとりだ。


豚まんなどをほおばりながら、お店のあるビルの前のちいさな日向で、
ぼんやりとちおさんを待つ。今日は平日だが、この路地にも、
いろいろな人たちが歩いている。職業はよく分からない。
仕事中なのか、お休みなのか。いろいろな人たち。


TLに、開店が遅れる報を見つけて、
それならもっと何か食べておこうかと、
駅の方へ引き返す。なか卯があったので入った。
狛江に住んでいた頃、駅前のなか卯には世話になった。
カウンターで男性客二人に挟まれて、親子丼をかきこむ。


ビルの前に行くと、まだ看板が出ていない。
扉は開いていたので、そっと中をうかがう。
急な階段の上を見上げると、店の中に、
人の気配がする。なんとなく、
階段の下でもたもたしていると、
ちおさんが声を掛けてくれたのでお店へ入る。


オープンすぐは、あまりお客さんも来ない、
とうかがっていたのだが、どうしてどうして、
人気店、1003、ひっきりなしにお客さんが現れる。
開店前のトンカさんまで駆けつけてきて、ひとしきり展示を見ておしゃべりし、
嵐のように去って行った。ご夫婦だろうか、二人連れでじっくり見ている人もいた。


ちおさんに淹れてもらったコーヒーを飲みながら、
とぎれとぎれながらものんびりと、「読みたい本」の話を聞いた。


ちおさんの、積ん読に対して罪悪感を感じてない、というスタイル、このもしい。
僕の感じる「罪悪感」てのも、アリバイ的な可能性もあるな。ほんとは、
罪悪感なんてまったく感じてないじゃないのか、っていう。
「読みたい本」がたくさんある、という幸せ。それは、
積ん読の山の高さに比例してもいいはずだよなぁ。


その山を横に倒して、棚に並べたら幸せはさらに増すのではないかしら。
そういえば、読んだ本は並べるのに読んでない本は積んでしまいがち。
今度、積んでる本と並べてる本を入れ替えてみようかな。


読みかけの本をそのままに、次の本に手を出す話も興味深かった。
最初の方に栞が挟まった本が、いくつも待っている。手元に読みかけの本を持っていなくて、
近くにあった別の本を読み始めてしまったり。買った本を帰りの電車で読み始めたり。


何人かで、「読みたい本」を持ちよって、話をしてみる、というアイデアも出た。
話のタネとしての、「読みたい本」。話すことでその本が、少し、ふくらむかもしれない。


この本は、あの本屋さんで買いたい、みたいなのがちょいちょい出てきて共感。
あと、最後の1冊を買うときに、「買ってもいいですか?」って聞いちゃうところも共感。
まさに今日、1003とこで最後の1冊を買わせていただいた。
どれが最後だったかは内緒。追加発注されたことでしょう。


購入。1003。
『ヒトハコ 創刊号』(書肆ヒトハコ/ビレッジプレス
『本と本屋とわたしの話 11』(宮井京子)
雨宮まみ、岸政彦『愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)』(ミシマ社)


僕がいろいろ過剰にことばを返してしまったせいで、だいぶとりとめのないおしゃべりになってしまった。
果たしてちおさんは、「読みたい本」の話をした、と感じられたのだろうか。
しばらくしたら、また聞かせてください、何度でも。


今日はしゃべりっぱなしだったけど、窓から路地を見下ろしながら1時間くらいぼーっとしていたいなぁ、
と思う。たまに来るとどうしてもあれこれ話をしたくなっちゃうけど、1003は、棚と向き合ったり、
音楽に気を取られたり、記憶を巻き戻してみたり、ただ静かにそこで過ごすに最高の環境。
いつだか誰かに1003の良さを力説した記憶があるのだが、誰だったか。善行さんかな。


仕事帰りに1003に寄って、ビールかコーヒーか、1杯飲んで、本を1冊買って帰る、って、
すごく幸せそうな生活だな。パラレルワールドの自分に、強くおすすめしたい。


それなりにゆっくりして、そろそろ帰った方がよさそうな時間だったが、
せっかくなのでトンカさんにも行きたい。1003を出た僕は小走りでトンカさんに寄って、
ハガキと本を1冊。今日もトンカさんでは、世田谷ピンポンズが流れていた。
トンカさんで聞く世田ポン、しみる。とほんさんで買おうと思っていた新譜、
売っていたら買ってしまいそうだったが、見つけられなかった。


購入。トンカ書店
中共子『図書館で出会える100冊 (岩波ジュニア新書)』(岩波書店


神戸三宮から、近鉄奈良行き快速急行に乗っている。
一本で帰れる便利さ。本を読まずに、ケータイ遊び。
鞄には、戦利品が詰まっているってのにね。


さてそろそろ、本を読むか、と戦利品はそっとしておいて、
片岡義男はおそらく読み終えるだろう、と持ってきた文庫を開く。


車中のとも。
山村修増補 遅読のすすめ (ちくま文庫)』(筑摩書房

本はゆっくり読む。ゆっくり読んでいると、一年にほんの一度や二度でも、ふと陶然とした思いがふくらんでくることがある。(p.11)


気がついたら、寝ていた。
文庫には戻らず、『ヒトハコ』を取り出す。表紙のイラスト、いい。
立って本を読む男の子の、手すりのつかまりかたとか、いい。
これは、電車かなぁ。ますこえり、という方のイラスト。


そのまま、世田谷ピンポンズさんの文章を読んだ。
すてき。また本屋さんでのライブ、行きたい。
長谷川書店でのライブのときにもらった文章、
どっかいっちゃったんだな。見つけ出して、
読みなおしたい。コーヒーのこととか、
書いてあったよな。どこいったかな。


近鉄奈良に到着、まだ明るいが、
帰って洗い物をしたり、多少は夕飯の準備をしようかと思うと、
お迎えに行く頃は暗くなってしまうだろうな、などと考えながら歩く。


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というわけで、とり年とり本屋の企画として思いついた、
「読みたい本」話を聞きにゆく、という企画*1、さっそく実行してみました。


想像以上にとりとめのないおしゃべりになってしまったけど、
そこは、そういうものとしてむしろ歓迎していく方向で、
それよりも、誰かに会いに行く、という行為がむしろ、
とても魅力的なことだな、と思いました。本を買いに行く、
とか、本屋さんを見に行く、というのではなくて、会いに行く。


どなたかのお誘い、お待ちしております。
「読みたい本」の話を聞きにゆきます。

*1:「読みたい本」の話を聞きます!:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20161122