2017 五本の指

2017年、五本の指

い:アニカ・トール、菱木晃子『ステフィとネッリの物語』シリーズ(新宿書房
ろ:呉明益、天野健太郎歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)』(白水社
は:若菜晃子『街と山のあいだ』(アノニマ・スタジオ
に:前野健太百年後』(スタンド・ブックス)
ほ:小野博『新装版 世界は小さな祝祭であふれている』(モ・クシュラ)


「い」は、2016年の年末に読んだ『図書館で出会える100冊』*1で知った本。
全て図書館で借りて読んだのだが、娘のために、
4巻セットで買いたい。できれば、買ってすぐに読ませたいから、
読めるくらいの「年齢」になってから買いたいのだが、間に合うだろうか。
絶版になってしまわないだろうか。


アニカ・トール、菱木晃子『海の島―ステフィとネッリの物語』(新宿書房
アニカ・トール、菱木晃子『睡蓮の池―ステフィとネッリの物語』(新宿書房
アニカ・トール、菱木晃子『海の深み―ステフィとネッリの物語〈3〉』(新宿書房
アニカ・トール、菱木晃子『大海の光―ステフィとネッリの物語』(新宿書房


「ろ」は、宇田智子さんの「読みたい本」としてその存在を知り、
これまた図書館で借りてきて読んだ本。すごかった。10ある短編の、
ひとつを除いたことごとくにしびれた。もう、その違和感も忘れたけども。
毎年本を贈ってくれる友人がいて、今年はこれを贈ってくれました。
既読で未所持のプレゼントは初めて。持ってるか確認されたとき、
喜んで既読のそれを希望しました。と、いうわけで、
この素晴らしい装丁を自宅でいつでも愛でられる。


「は」は、とほんさんで、ひとめぼれして購入した一冊。
こぶりな造本が車中のともにぴったり。昔、毎夏のように父と山行した身には、
懐かしくもある山の話題があたたかい。今後、再び山に親しむかは不明だが、
山はいつでもそこにある、というのが頼もしく、それはきっと、
だれかにとっての「本」の存在と似ているのだろう、と思う。
文中の「山」をしばしば「本」に置き替えて読んだ。
できればいつか、山に登るときに持っていきたい。


「に」は、事前にツイッターで知って、なんとなく刊行を楽しみにしていた一冊。
前野健太の名前は、いつ知ったのだったか。あれかな、ビビビさんのツイートかな。
始めのころは休みの日にコーヒー飲みにでかけたときに少しずつ読んで、
最後の方は、元気のない通勤電車で読みながら励まされた。
これもまた、あたたかく優しい一冊でした。
コーヒーのともに、あなたもぜひ。


「ほ」は、2008年の五本の指に入った『ライン・オン・ジ・アース』*2の著者、
小野博の本。初版は2012年、新装版の刊行が2016年とある。
2016年の年末に、とほんさんで発見、購入した記憶。
去年、長谷川書店さんでも棚差しされてるのを見た。


『ライン・オン・ジ・アース』も良かったが、この『小さな祝祭』も、
とても良かった。冒頭の地雷のエピソードには胸が凍るような気持ちになったけど、
東京での日々と、オランダでの暮らし、どちらも一生懸命で、周りの人が優しくて、
時代の厳しさから目をそらさず、誠実に生きていこうという態度にエネルギーをもらえた。
文章もユーモアにあふれていて、ときどき声に出して笑ってしまうこともあった。
この一冊に救われる人が、まだまだいるような気がして落ち着かなくなる。
どういう人にすすめたらいいか、ことばは見つからないのですが。


さて、2017年、とてもいい読書がいっぱいだった年になりました。
五本の指に入れなかった本を挙げても、その充実度は、近年になかった気がします。
「とり年、とり本屋」と題して自らを鼓舞した一年の、
本と本屋さんの軌跡をざっと振り返ってみましょう。


最初に、5本の指に入れようとして、惜しくももれてしまった一冊を。


読書猿『アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール』(フォレスト出版


これは、読了後にも鞄に入れて抜書きノート作ったりして、
さんざん楽しませてもらった一冊で、早々にリスト入りしていたのですが、
今回5冊を選ぶにあたって、「弱っている自分に寄り添ってくれる声の小さな本」、
というテーマのようなものが、最終的に浮かび上がってきてしまいまして、
この本には、もっと大きなエネルギーがうずまいているからな、と、
少し、別の枠に入れることにしました。もちろん、この本にも、
励まされたり勇気をもらえる可能性はたくさんつまっていて、
僕自身も、かなり長い期間、お世話になったのでした。


こないだ読み終えた『問題解決大全』*3も合わせて、
ここしばらくは、いろいろと助けてもらえるんじゃないかと期待している「実用書」です。


木村俊介『インタビュー』(ミシマ社)


こちらは、濃厚すぎて、自分には消化できなかった感もあり。
五本の指に入れるには、まだまだ僕の修行が足りないようです。
「人に話を聞く」というのは僕にとっても大事なテーマなので、
今後も、折に触れて読み返したい一冊。木村俊介さんの本は、
この本の後、続けて再読を重ねました。


木村俊介『善き書店員』(ミシマ社)
木村俊介『漫画編集者』(フィルムアート社)


ミシマ社さんからの案内で刊行前から気になっていた、
河野通和さんの一冊。思いがけず、新書でも新刊が出て、
河野さんの紹介された本をいろいろと買ったり借りたりして、
好奇心がずいぶんと刺激されました。
河野通和『言葉はこうして生き残った』(ミシマ社)
河野通和『「考える人」は本を読む (角川新書)』(KADOKAWA


中でも、山崎佳代子『ベオグラード日誌』*4は、
異国の地で「母語」と異なる言語と暮らす、というテーマで、
その後の『台湾生まれ 日本語育ち』*5、『べつの言葉で』*6ともつながってゆき、
読書の連鎖反応の好例となりました。『台湾生まれ』は、『歩道橋の魔術師』ともリンクし、
「台湾」という好奇心キーワードを新たに得ることができました。
河野さんから「教わった」本たちも、探書リストにずらり。
実に「読み心」を刺激してくれる嬉しい本たちでした。
五本の指に入らないのは、その刺激が手に負えず、
追いかけきれていないから。木村さんの本と同様、
自分の未熟さを思い知らされたといったところ。


「ステフィとネッリ」シリーズの訳者、菱木晃子さんは、
大好きなセーラーペッカシリーズの訳者でもあるのですが、
この秋、「NHKカルチャーラジオ 文学の世界」でスウェーデン児童文学を
紹介してくれました。ぜんぜんラジオは聞けてないのですが、第一回の放送を、
ネットで聞くことができました。思いがけないユーモラスな場面があって、
「あぁ、これが肉声で伝わることなのかな」と思ったり。
「文学の世界」は他にも、飯間先生の国語辞典の話、
そして今年は若松英輔先生の詩の話、と、
魅力的なラインナップが続きます。
今まで全然注目したことなかったので、
嬉しい発見。ラジオが聞けたら一番いいのですが、
聞けずとも、せめてテキストは読んでおきたい、読めてない。


菱木晃子『NHKカルチャーラジオ 文学の世界 大人が味わうスウェーデン児童文学 (NHKシリーズ)』(NHK出版)
飯間浩明NHKカルチャーラジオ 文学の世界 国語辞典のゆくえ (NHKシリーズ)』(NHK出版)
若松英輔NHKカルチャーラジオ 文学の世界 詩と出会う 詩と生きる (NHKシリーズ)』(NHK出版)


マンガもちらほら。
吉田戦車まんが親 5 (ビッグコミックススペシャル)』(小学館
林静一赤色エレジー (小学館文庫)』(小学館
萩尾望都スター・レッド (小学館文庫)』(小学館文庫)
益田ミリオレの宇宙はまだまだ遠い』(講談社
山田英生:編『ビブリオ漫画文庫 (ちくま文庫 や 50-1)』(筑摩書房
本田『ガイコツ書店員 本田さん 2 (ジーンピクシブシリーズ)』(KADOKAWA
さくらももこちびしかくちゃん 1 (りぼんマスコットコミックス)』(集英社


本の本、本屋さんの本は、もちろん、ずらり。
辻山良雄『本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録』(苦楽堂)
宇田智子『那覇の市場で古本屋―ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』(ボーダーインク
宇田智子『本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)』(筑摩書房
大井実『ローカルブックストアである: 福岡 ブックスキューブリック』(晶文社
ブックオカ編『本屋がなくなったら、困るじゃないか: 11時間ぐびぐび会議 (棚ブックス)』(西日本新聞社
ヨシタケシンスケあるかしら書店』(ポプラ社
長江貴士『書店員X - 「常識」に殺されない生き方 (中公新書ラクレ)』(中公新書ラクレ
木下通子『読みたい心に火をつけろ!――学校図書館大活用術 (岩波ジュニア新書)』(岩波ジュニア新書)
成田康子『高校図書館デイズ: 生徒と司書の本をめぐる語らい (ちくまプリマー新書)』(筑摩書房
関川夏央本よみの虫干し―日本の近代文学再読 (岩波新書)』(岩波新書
小川洋子平松洋子洋子さんの本棚 (集英社文庫)』(集英社
『ブックレットホン 創刊号 奈良と本』(とほんの編集室)


既刊、再読もありましたが、本の本の新刊に、
熱いものが多かった気がします。買ったけど未読のものも、
まだまだあるし。もらったエネルギーを、現場に還元したい。いやマジで。
辻山さん、大井さん、ブックオカ、このあたりの塊は、マグマのような感じ、
長江さんの本も、すごく刺激的だった。学校図書館の現場も、
すごく熱があって、いいなと思う。現場に還元したい。


あいかわらず、なかなか小説に手が伸びないのですが、
それでもたまに読むと、ぐわーっとやられて、「やっぱいいな!」と、
「やっぱ危険だ!」の、両方の気持ちが左右からぼくをゆさぶりまくり。
村上春樹女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)』(文藝春秋
トム・レオポルド・岸本佐知子君がそこにいるように (白水Uブックス―海外小説の誘惑)』(白水社
岩瀬成子オール・マイ・ラヴィング (小学館文庫)』(小学館
カズオ・イシグロ土屋政雄わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)』(早川書房
北村薫太宰治の辞書 (創元推理文庫)』(東京創元社
ハンス・エーリッヒ・ノサック、小島衛『幻の勝利者に (1970年)』(新潮社)
夏目漱石それから (新潮文庫)』(新潮社)


ちばさと先生の本、二階堂和美ライブのともは、2016年三月書房で買ったこれ。
千葉聡『海、悲歌、夏の雫など (現代歌人シリーズ)』(書肆侃侃房)
12月には、岩波ジュニア新書にも登場しました。
千葉聡『短歌は最強アイテム――高校生活の悩みに効きます (岩波ジュニア新書)』(岩波書店


小説以外、本の本以外で、思い出に残っているものたち。
あそこで買ったな、とか、あそこで読んだなとか、嬉しい思い出たち。
若松英輔言葉の贈り物』(亜紀書房
伊藤比呂美女の一生 (岩波新書)』(岩波書店
上間陽子『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)』(太田出版
新城和博ぼくの沖縄“復帰後”史 (ボーダー新書)』(ボーダーインク
矢萩多聞『たもんのインドだもん (コーヒーと一冊)』(ミシマ社)
高山佳奈子共謀罪の何が問題か (岩波ブックレット)』(岩波書店
岡崎武志ここが私の東京』(扶桑社)
広瀬友紀『ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)』(岩波書店
藤本智士『魔法をかける編集(地域編集の教科書) (しごとのわ)』(インプレス
佐藤多佳子夏から夏へ (集英社文庫)』(集英社)良かった
小野一光『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相 (文春文庫)』(文藝春秋
北野新太『等身の棋士』(ミシマ社)


『月刊ドライブイン*7も、2017年の重要な収穫。
って、vol.01しか読んでませんけれども。vol.01 とても良かったです。
いちおう、刊行されているやつは全部買いそろえてある、はず。読みます。
橋本倫史さん、次号もお待ちしております。取材、頑張ってください!
最初の方の巻は売り切れてるところ多いから、
見つけたら迷わず購入すべし。


子どもの頃に読んだ本との再会もいくつか。
三田村信行、黒岩明人『ぬすまれたタイムマシン事件 (ウルフ探偵 (3))』(偕成社
これについては、5月の記事ににしっかり書いてました。
隠されたタイムマシンに乗って:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20170503


あと、これ。
舟崎靖子もりのゆうびんきょく (もりはおもしろランド( 1))』(偕成社
まだそれほどたくさん本を所持していなかった幼少の頃、
たぶん繰り返し読んだはず。ところどころ強烈に覚えている絵とか、
想像したときの感覚とかがあって、一番古い読書の記憶のひとつかもしれず、
すごく感慨深い再会でした。お客さんの問い合わせ電話をたまたま取った、
という偶然も嬉しい。みつばち古書部で、このシリーズの本屋さんの話、
売っていた。これはシリーズの第一巻。母親が買ってくれたのだろうか。
見せたら、思い出すだろうか。



さて、「とり年、とり本屋」と題して、人との交流も期待した一年、
こちらも振り返ってまいりましょう。おなか一杯すぎて、もう、
2017年を振り返るだけで2018年を終えてしまいたくなりますな。


1:とり、未踏の本屋さんにゆく。
月1で、なんて無謀なことも考えましたが、
いきなり1月から未踏店訪問0だったので、
あえなく挫折。それでも2月に沖縄へ行って、
念願のウララ訪問がかなったので、もうそれだけで2017年の、
未踏の本屋さん訪問は大満足、ということでいいんです。自転車で、
本屋さんを目指して那覇の道を走ったのはとても楽しかった。また行きたい。


とり、沖縄の本屋さんにゆく:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20170218


2:とり、12年ぶりに再読する。
これも、月1で12冊の再読!とかいきまいていたけれど、
年間0冊の「思いつき企画」と終わることも覚悟した12月。
なんとか夏目漱石『それから』を読んで、12年前を思い返したりもしました。


それから12年、今なお本屋さんにゆく:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20171206


3:とり、あなたの読みたい本の話を聞きにゆく。
これはね、思っていた通りの「話を聞きにゆく」というのは、
2016年秋に1003を訪ねたのが最初で最後。でも、この時の話をきっかけに、
未読本の交換会に発展したので、それも広義の「読みたい本の話を聞きにゆく」に含めちゃおうか。
毎度、hm さんのお力添えをいただきながらの未読本ブクブク交換会を、2回やりました。
今年もどこかでまた、未読本を肴におしゃべりに花を咲かせたいと思っております。
(ちおさん、思っておりますのよ、今でも)


読んでない本を交換する人たち:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20170224
未読者の集い、再び:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20170617


4:とり、奈良の本屋さんを「案内」する。
5:とりと、とほんさんにゆく。
これらは、まぁ、言っただけに終わりましたねー。
結局、「本屋さんにゆく」のは、ひとりが気楽、というぼくの姿勢が、
同行者としてぜんぜん期待できないと思われるのでしょうな。さもありなん。
どこかの奇特な方からお誘いを受けたら、もちろん、喜んでご案内します。


さて!
この辺で、そろそろ娘のお迎えに、と思ったけれど、
待て待てよ、大事なあれの話をしていなかったじゃないか。


8月27日(日)、長谷川書店さんでひとり芝居やりました!
夏の終わりのハーモニカ:http://d.hatena.ne.jp/tori810/20170827


いやー、これは、ほんっとに幸せな体験でした。幸せにとどまらない、
僕の人生にとって、重要な一日になった、はずなのですが、どうだろう。
第二回を企んでいるのですが、企んでいるのですが、企んでいるのですが。
(稔さん、企んでいるのですよ、今でも)今後に、続けたい大事な一日でした。


もうひとつだけ。


みつばち古書部:http://bit.ly/2tWMX75


2017年は、8月2日、10月4日、12月13日の3回、店番をさせてもらいました。
こないだの2月7日の店番をもって、みつばち役を「引退」することになりましたが、
いやー、古本屋さんの店番体験もまた、貴重な機会を楽しませていただきました。
あまりことばにしにくい喜びでしたが、あの、帳場の中から眺めた路上を行きかう人の姿や、
熱心に本棚をにらむ人たちの横顔は、これからもぼくの心を温め続けてくれると思います。



いやー、2017年分のアップは、2月9日になってしまいましたなぁ。
今日の日記は、明日の分に書き添えようかな。おしまい!



2016 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20170108


2015 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20160203


2014 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20150108


2013 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20140130


2012 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20130109


2011 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20120104


2010 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20110105


2009 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20100102


2008 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20090102


2007 五本の指  
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20080102


2006年ベスト5
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20070102


2005 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20060101


2004 五本の指
http://d.hatena.ne.jp/tori810/20050101